労働局のあっせんとは|メリット・デメリットと成功例・失敗例

近年、パワハラ、セクハラを始めとする職場におけるハラスメントが問題となることが多くなり、また他にも解雇、賃金の未払いなどの労働に関する問題が少なくありません。

「労働局のあっせん」という制度によって労働問題が解決した事例があると耳にした方もあるかもしれません。

  • 労働局のあっせんとは何か?どの場面でこのあっせん制度が使えるのか?
  • パワハラの場合でも使えるのか?
  • 実際にあっせんをやってみて、成立するとどのような効果があるのか?
  • 手続きの流れやメリット、デメリット、あっせんが失敗・打ち切りになるとその後は?

などの疑問について分かりやすく解説します。

労働局のあっせんの基礎知識

労働局のあっせんとは?

「労働局」は、厚生労働省の地方支部局の一つであり、すべての都道府県に設置されています。

また、労働局のあっせんは、あっせん委員が、労働問題における紛争当事者の間に公平・中立な第三者として入り、双方の主張を聞き、問題点を整理しながら労働者、使用者の双方で「自主的な解決」が図れるよう調整を行い、紛争の解決を図る制度です。

簡潔にいうと、労働者と使用者間の労働問題に第三者として入り、紛争の解決のために調整をする制度のことをいいます。

労働局のあっせんの申請は誰がやるの?

あっせんの申請は、労働組合だけでなく、労働者もできますし、また使用者の側からもすることができます。

またアルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規雇用の方もあっせんの申出ができます。

この制度は、裁判手続きではないため、弁護士へ依頼しなくとも申請が可能です。

なお、もちろん弁護士に依頼することも可能で、その場合、あっせんの手続きに弁護士を同席させることも可能です。

もっともこの場合には、申請者から弁護士への委任状は必要となります。

どこの労働局に申請するの?

労働局のあっせんの申請は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局に提出することになります。

例えば、申請者が、神奈川県に在住し、事業所が東京都である場合には、申請者が現在住んでいる神奈川県ではなく、東京都労働局にあっせんの申請書を提出することになります。

どのような問題に対応してくれるの?

労働に関する問題といっても様々あります。労働局がどのような問題のあっせんしているのかについて「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律5条」で規定しています。

この条文からは、労働契約に基づく使用者と労働者個人の間の労働問題に関する紛争が対象となることがわかります。

つまり「パワハラ・セクハラやいじめ」「解雇」「賃金の未払い」などの問題が対象になります。

もっとも「労働者の募集や採用に関する事項」については除かれています。

また他にも除外されている例は、以下のものがあります。

・労働組合と事業主の間での紛争や労働者同士の紛争
・労働組合と事業主との間で問題として取り上げられており、当事者間で自主的な解決を図るために話し合いが進められている紛争
・既に裁判中の紛争又は確定判決が出ているなど、他の制度において取り扱われている紛争

上記3点が除外されている理由としては、あくまでも労働者個人の個別的な問題を解決するための制度であることや他の手続きで既に争われている場合には、労働局のあっせん手続きの必要性がないからです。

紛争調整委員会・あっせん委員ってなに?

労働者と使用者の間に入る「紛争調停委員会」は、弁護士、大学教授、社会保険労務士等の労働問題に関する専門家により構成されています。

この委員会のうちから指名される者があっせん委員として紛争解決に向けてあっせんを実施することとなります。

実際にやってみるには|具体的なあっせんの手続きの流れ

①あっせんの申請

各都道府県労働局にあっせんの申請書を提出し、手続きが開始します。
申請書は、都道府県労働局のホームページからダウンロードすることができます。

②労働局が、紛争調停委員会へあっせんの委任をします。

この段階で、必要に応じて申請者から事情聴取を行い、労働局が、紛争調停委員会へあっせんの委任を行うかを決定することがあります。

③あっせん委員の活動実施

あっせん委員は、以下の活動を行います。

・あっせん期日の決定
・紛争当事者への事情聴取
・話し合いの促進
・具体的なあっせん案の提示

具体的なあっせん案の提示は、労働局側が、紛争当事者からの事情聴取をもとに作成し、労働者及び使用者に提示することになります。

④結果

あっせん案の双方の受諾又はその他の合意が成立することによって、紛争の解決となります。

また、これらの不成立による場合には、あっせんは不成立となり打ち切りとなります。

労働局のあっせんの効果とは?

紛争当事者間で合意が成立した場合には、合意内容は民法上の和解契約の効力を持ちます。

民法上の和解契約が成立した場合には、和解の内容が確定することになり、紛争当事者はその「内容に拘束」されることとなり、これに反することはできなくなります。

例えば、労働者と使用者との間で使用者が労働者に対し30万円の和解金の支払いをすることをもって紛争を終結させると合意した場合において、使用者が上記の和解金を支払わなかった場合には「契約の不履行(債務不履行)」の責任追及を裁判上ですることが可能となります。

その場合には、労働者は、使用者に対して、合意書に基づいて、30万円の解決金及び支払期日から現在までの遅延損害金の請求もすることができます。

あっせんのメリット

当事者間を法的に拘束できる

上記で解説したとおり、紛争当事者間で合意が成立した場合には、法律上内容が確定する効果が生じますので、紛争当事者間を法的に拘束することができます。

費用がかからない

裁判手続きと異なり労働局のあっせんの手続きには費用がかかりません。

非公開

あっせん手続きは、非公開であるため、紛争当事者のプライバシーが保護されています。

不利益な取り扱いの禁止

労働者があっせん申請をしたことによって、使用者が労働者に対して、解雇やその他の不利益な取扱いをすることは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第3項によって禁止されています。

簡易な手続き・短い期間・回数で迅速に終わる

申請が比較的簡単で、また早期解決であれば、申請の日から「30日以内に解決」できる場合が多く、また、比較的多くのあっせん事例では1回で終わることが多いため、迅速に解決することができます。

相手方と顔を合わせる必要がない

関係を崩したくないと考えている場合、相手と顔を合わせたくない場合もあるかと思います。

労働局のあっせん手続きでは、あっせん委員が個別に主張や事情を聞くため、相手方と顔を合わせる必要がありません。

あっせんのデメリット

相手方が参加する意思がなければ、手続きが始まらない

そもそも、使用者があっせんに不参加の意思表示を示した場合には、手続きが開始されず、打ち切りとなります。
また、使用者にあっせんの手続きに参加することを強制することはできません。

失敗することがある

使用者側が参加の意思を表示し、あっせんの手続きに参加したとしても、提示した合意案を受諾しなければ、合意が成立せず、あっせんは打ち切りとなりますので、必ず解決できるとは限りません。

あっせんには、どのような具体例があるの?

あっせんが成功した例

パワハラ・いじめ・嫌がらせに関する例

<事例>
申請人は、有期契約労働者であり、その期間中にリーダーを担当していた者から、無視や机を蹴るなどのパワハラがあったなどを理由として退職しました。そして、退職しなければ得られた契約満了までの数カ月分の金銭補償(約30万円)を求めた事例です。

<あっせんの結果>
使用者側は、リーダーにパワハラまでは認められないと主張したものの、その者に多少の非があることを認め、解決金として、1カ月分(約15万円)の給与の支払いをする考えを示し、申請者がそれを受け入れたことによって、合意が成立し、紛争が解決しました。

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解雇に関する例

<事例>
申請人は、正社員であり、突然会社から即日解雇を言い渡されました。解雇の理由としては、「職務中の携帯電話の不適切使用」でした。これに対して、申請人は、他の者も同様に仕事中に携帯電話を使用しているのに自分だけ処分を受けたことに納得がいかないため、復職か補償金賃金約10カ月分(約200万円)の支払いを求めた事例です。

<あっせんの結果>
使用者側は、申請人は業務中に頻繁に携帯電話で私的なメールのやりとりをしており、目に余る行為が多かったため、復職はできないとしました。
補償金については始めは、使用者側は50万円の提示をしました。もっとも、申請人側から80万円なら譲歩できるとしたため、結果として80万円の解決金の支払いで合意が成立し、解決しました。

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あっせんが成功しなかった例

給与、ボーナスに関する例

<事例>
使用者は、給与の引下げを組合に提案し、団体交渉を数回行ったものの、交渉は上手くいかず、給与を減額して支給した事例です。

<あっせんの結果>
数回の交渉がされたものの、使用者から減額理由について納得できる説明を受けることができず、その結果、解決されませんでした。

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就業規則の変更に関する例

<事例>
使用者は、組合に対して就業規則の変更を提案し、組合が不利益な変更であると主張し、争った事例です。

<あっせんの結果>
労働者と使用者で協議が数回行われたものの使用者は協議が整わないまま従業員に対して説明会を開き、強引に進めたため、解決されませんでした。

退職に関する例

<事例>
Xは、使用者から暴行行為やパワハラを受け、心身に不調を来し、退職に至りました。その際に組合に加入し、使用者に対して謝罪及び未払いの賃金の支払いを求めた事例です。

<あっせんの結果>
3回程度の交渉がなされたが、解決に至りませんでした。

和解金・解決金の相場はどれくらい?

「和解金・解決金の相場」については、個別的な事情によりますし、嫌がらせや解雇などの被害の内容でももちろん異なります。

あくまで参考の目安としての相場になりますが、労働局のあっせんの解決金は、過半数の事件では、「20万円未満」です。

他の手続きの平均額は、例えば、労働審判が約200万円が相場であり、裁判では約400万円が相場であり、もちろんこれらも事案によっては様々ではありますが、これらと比較すると、労働局のあっせんによる和解金の額は、労働問題としては低い印象となります。

あっせんが打ち切り・失敗になった場合にはその後、どうすればいい?

あっせんの申請をしたものの、使用者側があっせんに参加しなかった場合やあっせん案の提示に対して労働者及び使用者のいずれかあるいは、双方が受諾しなかった場合には、あっせんの手続きは打ち切りとなります。

もっとも、労働局のあっせんが打ち切られた後は「労働審判」や「裁判」など他の手続きによって、紛争を解決することとなり、労働者としては争う手段があります。

その場合には、法律の専門家である弁護士に依頼することが無難です。

まとめ

「労働局のあっせん」という制度は、労働者と使用者の間の労働問題を労働問題の専門家で組織されたあっせん委員会が間に入り、労働者、使用者の双方で自主的な解決が図れるよう調整を行い、紛争の解決を図る制度です。

労働者と使用者との間での紛争のうち、労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争以外であれば、パワハラ、嫌がらせ、解雇などの様々な問題が対象になります。

メリットとしては、費用がかからず簡易迅速に進めることができ、合意に至り合意書を作成すれば紛争当事者双方を法的に拘束することができます。しかし、そもそも使用者側があっせんに参加をしない意思表示をした場合には、打ち切られます。

あっせんが打ち切られた場合には、弁護士などの法律の専門家に相談をするようにしましょう。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
本記事は労働問題弁護士カフェを運営するエファタ株式会社の編集部が執筆・監修を行いました。
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