労働基準監督署(労基署)に通報したその後|意味ない?相談するとどうなる?
労働基準監督署(労基署)に通報したその後はどうなるのか、意味ないのか?相談するとどうなる?と感じている人が多いでしょ…[続きを読む]
最近、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の停滞が影響して、「雇い止め」の件数が増加しているというニュースが報じられるようになりました。
「雇い止め」と聞くと、「仕事を辞めさせられる」というイメージがすぐに思い浮かぶでしょう。
しかし、雇い止めが法的にどのように位置づけられるのか、またどのような場合に雇い止めが認められるのかなどについては、考えなければならない複雑な問題が存在します。
この記事では、雇い止めとは、また雇止めは自己都合退職か会社都合退職か、契約満了の違い、何が悪いのか、雇い止め理由証明書、能力不足で雇い止めなのかなどわかりやすく解説します。
もし雇い止めに遭ってしまった場合は、この記事を参考にして、法的に反論できる点がないかを十分に検討してください。
目次
まずは、雇い止めの意味や、その他基本的な事項について押さえておきましょう。
雇い止めとは、期間の定めがある雇用契約(有期労働契約)について、期間満了に伴い、更新を行わずに終了させることをいいます。
雇い止めは「解雇」と同じように捉えられることもしばしばですが、両者は似て非なる概念です。
解雇は契約期間が残っている、または期間の定めがない労働契約(無期労働契約)を途中で打ち切る行為です。
そのため「悪いことだ!」と考えがちですが、使用者が一方的に解雇を行うことは原則として違法であり、例外的に解雇が認められるためには客観的に合理的な理由が必要とされています(労働契約法16条)。
これに対して、雇い止めは労働契約の期間満了時にそのまま契約を終了する行為です。
労働契約上も、期間満了時に契約が終了することは予定されているといえるため、雇い止めについては解雇と異なり、原則として適法となります。
ただし、有期労働契約によって雇われている労働者についても、何度も契約が更新されるなど、無期労働契約により雇われている労働者と実質的に同じ雇用形態であると評価できる場合もあります。
こうしたケースでは、有期雇用労働者の雇用継続に対する期待を保護する必要性が高いため、労働契約法の規定により、一定の場合には雇い止めが無効となります。
どのようなケースで雇い止めが無効となるのかについては、後で解説します。
なお、雇い止めはあくまでも「契約期間の満了」に伴って労働契約を終了する行為であって、契約期間の途中で労働契約を解除する行為は、雇い止めではなく「解雇」に当たります。
既に解説したとおり、解雇は原則として違法で、使用者が労働者を解雇するためには客観的に合理的な理由が必要となる点において、雇い止めとは大きく異なります。
雇い止めは、契約期間満了によるとはいえ、労働者にとっては突然生活の糧である仕事を取り上げられてしまうことになりかねません。
そのため、労働基準法14条2項に基づき、厚生労働大臣によって雇い止めに関する基準が定められています。
(参考:「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」)
同基準の遵守状況は労働基準監督署のチェック事項となっていることから、使用者としては、同基準を遵守する義務を実質的に負っているといえます。
雇い止めに関する基準の内容について、詳しく見ていきましょう。
使用者は有期雇用労働者に対して、労働契約の締結時に以下の事項を明示しなければならないとされています。
自動的に契約更新するのか、使用者の判断で契約更新の可否を決めるのか、契約更新はしないのかなど、労働契約の更新の可能性を明示する必要があります。
労働契約の更新があり得る場合は、どのような基準により更新の可否が判断されるのかを明示する必要があります。
判断基準の具体的な内容の例としては、以下の要素が挙げられます。
以下のいずれかの要件に該当する場合、有期労働契約を更新しないときは、使用者は労働者に対して、少なくとも契約期間満了日の30日前までにその予告をしなければならないとされています。
雇い止めの予告をした場合に、労働者が雇い止めの理由についての証明書を請求する場合があります。
この場合、使用者は労働者に対して遅滞なく証明書を交付しなければならないとされています。
証明書の中で明示すべき「雇い止めの理由」は「契約期間が満了したから」という理由とは別の理由とする必要があります。
たとえば、以下のような理由が考えられます。
使用者は、以下の要件をいずれも満たす有期雇用労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならないとされています。
実際に雇い止めが行われる場合の流れや手続きは、実はそれほど複雑なものではなく、意外なほどあっさり雇い止めが行われてしまうことがほとんどです。
それというのも、雇い止めには特に決まった方式はないからです。
そもそも雇い止めは、契約期間の満了により雇用契約を終了することなので、特に契約解除の手続きなどは必要となりません。
そのため、口頭や簡易な書面などによって雇い止めをする旨が通告され、そのまま雇用契約が終了するというパターンが一般的となっています。
ただし、契約書に自動更新条項が規定されている場合には、自動更新を行わないようにするための手続きが使用者により取られることになります。
具体的な手続きは契約内容によりますが、たとえば期間満了の1か月から数か月前に雇い止めの予告を行うことを条件とするケースなどがあります。
契約書に自動更新条項がある場合のほか、厚生労働大臣が定める雇い止めに関する基準との関係で雇い止めの予告が必要となる場合があることは、既に解説したとおりです。
労働者の期待に反して雇い止めが行われてしまうと、労働者にとっては突然生活の糧を失ってしまうことになります。
そのため、労働契約法19条では、労働者において有期労働契約が更新されるものと期待する合理的な理由が認められる場合などには、有期労働契約のみなし更新を認めることで雇い止めを無効としています。
厚生労働大臣が定める雇い止めに関する基準では、雇い止めの有効性の判断要素について以下のものを挙げています。
仕事の種類・内容・勤務形態などが正社員と実質的に同一といえるかが考慮されます。
職場における地位が基幹的なものか、それとも臨時的なものかということや、労働条件が正社員と実質的に同一といえるかが考慮されます。
使用者側から労働者が継続雇用についてどのような説明を受けていたかが考慮されます。
契約更新の回数や勤続年数、契約更新時の手続きの厳格性の程度などが考慮されます。
同様の地位にある他の労働者について雇い止めが行われているかどうかが考慮されます。
他にも、有期労働契約を締結した経緯などが考慮されます。
厚生労働大臣が定める雇い止めに関する基準では、裁判例に照らして、上記の判断要素を総合的に考慮した上で雇い止めが無効となるパターンについて、以下の3つのタイプを挙げています。
有期労働契約であるにもかかわらず、無期労働契約と実質的に差がない状態に至っていると認められた場合には、ほとんどの事案で雇い止めが認められないことが指摘されています。
相当回数の契約更新が行われている実態があるために、雇用継続への合理的な期待が認められるケースでも、雇い止めが無効となる可能性があります。
ただし、正社員の整理解雇とは判断基準が異なるとして、経済的事情による雇い止めを認めた事案も多いことが指摘されています。
当初の契約締結時の事情などから、雇用継続への合理的な期待が認められるケースでは、その契約に特殊な事情の存在を理由として雇い止めを認めない事案が多いことが指摘されています。
雇い止めに関しては、会社都合退職または自己都合退職のいずれに該当するかという点が、失業保険給付や退職金との関係で問題になる場合があります。
雇い止めは使用者である会社の都合で行われるものなので、純粋な会社都合退職であるといえます。
会社都合退職の場合、自己都合退職よりも失業保険給付を受けることのできる条件が有利になります。
また会社によっては、会社都合退職の場合には退職金を優遇するケースもあります。
したがって、もし雇い止めを受けた場合は、会社に対して会社都合退職の取り扱いであることを確認しましょう。
しかし、会社としては後に雇い止めの効力が争われることを防ぐために、労働者に対して退職届を提出することを求める場合があります。
この場合、労働者としては退職届を提出する義務はありませんので、納得がいかなければ提出を拒否しましょう。
突然会社から雇い止めを通告されてしまい、納得がいかないので争いたいという場合に、どこに相談をしたら良いかということを解説します。
厚生労働省では、専門知識を持つ相談員が労働に関する電話相談を受け付ける「労働条件相談「ほっとライン」」を開設しています。
(参考:厚生労働省HP)
雇い止めが違法ではないかという疑問について気軽に質問をしたい場合には、「ほっとライン」に相談をしてみることがおすすめです。
労働基準監督署は、いくつかの市区町村ごとに設けられた、労働問題を管轄する厚生労働省の地方支分部局です。
労働基準監督署に違法な雇い止めの告発を行い、労働基準監督署が違法性を認めた場合には、使用者に対する指導などが行われます。
ただし、労働基準監督署は、あくまでも監督官庁として規制権限を行使するに過ぎず、労働者の代理人として行動してくれるわけではないことに注意が必要です。
雇い止めの無効主張や、使用者に対する損害賠償請求などを行いたい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は労働者の代理人として、労働者の権利を実現・保護するため、法律の専門的知見を活かして労働者をサポートしてくれます。
実際に労働審判や訴訟に発展した場合にも、弁護士に依頼しておけば、すべての対応を一任できるため安心です。
雇い止めは適法に行うことができることもありますが、労働者の継続雇用に対する合理的な期待が存在する状況がある場合には、違法・無効と判断されることになります。
最近は新型コロナウイルスの影響などにより、雇い止め自体の件数が増えてきていますが、そのすべてが適法に行われているとは限りません。
雇い止めを受けた労働者としては、泣き寝入りせずに、会社に対して何か請求できることがないかを模索しましょう。
突然の雇い止めを受けてお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。