労働基準法違反に当たるケースは?違反事例と罰則などを解説

使用者と労働者の契約関係において、労働者の権利を守るために制定されたのが「労働基準法」という法律です。

労働基準法には、労働者を労働させるに当たり、使用者が守らなければならないルールが定められています。
使用者が労働基準法上のルールに違反した場合、労働基準法違反として処罰の対象になる可能性があります。

具体的にどのようなケースで労働基準法違反となるのか、どの程度の罰則が課されるのかなどについて、この機会に理解しておきましょう。

この記事では、労働基準法違反に関する法律上の取り扱いについて全般的に解説します。

どのようなケースが労働基準法違反に該当するか?罰則はある?

労働基準法には、労働関係における多種多様な使用者の義務が定められています。

労働基準法違反に該当する行為に対しては、そのほとんどについて罰則が設けられています。
そのため使用者としては、事業に関して労働基準法違反が生じていないかについて、常に気を配っておく必要があります。

労働基準法違反の主要な例と違反に対する罰則

労働基準法違反のパターンには、実にさまざまなものがありますが(後で一覧の形で紹介します)、そのうち主要な例について見ていきましょう。

①残業代の未払い

残業代の未払いは、労働基準法違反に該当する行為の代表例といえます。

労働者が時間外労働などを行った場合、基本給とは別に割増賃金を支払う必要があります(労働基準法37条1項)。
しかし、残業の記録を適切に付けさせてもらえない、一定時間以上の残業が不当にカットされる仕組みになっているなどの理由で、労働基準法上支払うべき残業代が支払われないケースがあります。

残業代の未払いについては、「30万円以下の罰金」という罰則が定められています(労働基準法120条1号、24条)。

②労働者を違法に長時間労働させる行為

労働基準法上、労働時間の上限は原則として「1週間につき40時間、1日につき8時間」と決められています(労働基準法32条1項、2項)。
使用者と労働組合などとの間で協定(いわゆる「36協定」)が締結されれば、上記の上限を超えて労働させることができますが、その場合でも36協定の中で時間外労働の上限時間が定められます。

使用者が、労働基準法および36協定で定められた労働時間の上限を超えて労働者を労働させた場合、労働基準法違反の違法な長時間労働に該当します。

違法な長時間労働については、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が定められています(労働基準法119条1号、32条)。

③国籍、信条、社会的身分、性別などを理由として労働者を差別する行為

使用者は、国籍、信条、社会的身分、性別などを理由として、労働者を不平等に取り扱う行為を禁止しています(労働基準法3条、4条)。

これらの規定に違反する行為については、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が定められています(労働基準法119条1号、3条、4条)。

代理人や従業員の労働基準法違反についても事業主が刑事責任を負う

事業主の代理人や従業員が労働基準法に違反する行為を行った場合、事業主にも監督責任があるといえます。
そのため、代理人や従業員の違反行為については、事業主にも罰金刑が科されるものとされています(労働基準法121条本文)。
ただし、事業主が違反防止の措置を講じていた場合には、例外的に罰金刑の対象外となります(同条但し書き)。

なお、事業主がこれらの代理人や従業員による違反の計画を知っていて放置したり、違反を教唆したりした場合には、事業主も違反行為者とみなされ、懲役刑の対象にもなります(同条2項)。

罰則一覧

労働基準法の罰則規定に該当する違反行為について、主要なものから細かいものまで記載した一覧表は下記のとおりです。
必要に応じて参考にしてください。

違反内容 罰則

  • 強制労働をさせる行為(5条) 1年以上10年以下の懲役
    または20万円以下300万円以下の罰金(117条)
  • 中間搾取行為(6条)
  • 最低年齢未満の児童を労働させる行為(56条1項)
  • 18歳未満の者を坑内労働させる行為(63条)
    など 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(118条1項、2項)
  • 国籍、信条または社会的身分を理由として、労働条件の面で労働者を差別する行為(3条)
  • 労働者が女性であることを理由として、賃金面で男性と差をつける行為(4条)
  • 労働者による公民権の行使を拒否する行為(7条)
  • 労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をする行為(16条)
  • 労働することと引き換えに前貸しを行い、その債権と賃金を相殺する行為(17条)
  • 労働者に強制的に貯蓄をさせる行為(18条1項)
  • 業務上負傷しまたは疾病を負った労働者や、産前産後の女性を解雇禁止期間中に解雇する行為(19条1項)
  • 30日前の解雇予告義務を怠る行為(20条1項)
  • 第三者と通謀して、労働者の就業を妨げる目的で労働者の国籍、信条、社会的身分もしくは労働組合運動に関する通信をするなどの行為(22条4項)
  • 法定の労働時間の上限を超えて労働者を労働させる行為(32条)
  • 労働者に対して与えなければならない休憩を与えない行為(34条)
  • 労働者に対して与えなければならない休日を与えない行為(35条)
  • いわゆる36協定に関する労働時間の規制に違反した場合(36条6項)
  • 時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金を支払わない行為(37条)
  • 年次有給休暇を適切に与えない行為(39条)
  • 18歳未満の者を深夜に使用する行為(61条)
  • 18歳未満の者に一定の危険な業務などに就かせる行為(62条)
  • 妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性に一定の有害な業務に就かせる行為(64条の3)
  • 産前産後休暇の取得を認めない行為など(65条)
  • 妊産婦の請求に反して法定の労働時間を超えて労働させる行為(66条)
  • 1歳未満の子どもを育てる女性の育児時間の請求を認めない行為(67条)
  • 業務上負傷し、または疾病にかかった労働者について、療養補償、休業補償、障害補償をしない行為(75条、76条、77条)
  • 労働者が業務上死亡した場合において、遺族に対する遺族補償をしない行為(79条)
  • 労働者が業務上死亡した場合において、葬祭料を支払わない行為(80条)
  • 寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任に干渉する行為(94条2項)
  • 寄宿舎について、労働者の健康、風紀および生命の保持に必要な措置を講じない行為(96条)
  • 労働者が監督機関への申告を行ったことを理由として、労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをする行為(104条2項)
    など 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(119条)
  • 法定の上限を超える契約期間の労働契約を締結する行為(14条)
  • 労働者に対して労働条件を明示しない行為(15条1項)
  • 終業のために住居を変更した労働者に対して旅費を負担しない行為(15条3項)
  • 労働者の貯蓄金の管理を中止すべき旨の行政官庁の命令に違反する行為(18条7項)
  • 労働者の退職時に証明書を交付しない行為(22条)
  • 労働者が死亡または退職した場合に、権利者の請求に反して労働者の金品を返還しない行為(23条)
  • 労働者に対して賃金を法定の方法により支払わない行為(24条)
  • 労働者による非常時払の請求に応じない行為(25条)
  • 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合に、休業手当を支給しない行為(26条)
  • 請負制で使用する労働者に対して、労働時間に応じた一定額の賃金を保障しない行為(27条)
  • 一定の場合において行政官庁への届出を怠る行為(32条の2第2項、32条の5第2項、33条1項但し書き、38条の2第3項)
  • 年間10日以上の年次有給休暇を与える労働者に対して、そのうち5日以上を基準日から1年以内の期間に与えない行為(39条7項)
  • 使用する18歳未満の者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けない行為(57条)
  • 親権者または後見人が未成年者に代わって労働契約を締結する行為(58条)
  • 親権者または後見人が未成年者の賃金を代わりに受け取る行為(59条)
  • 18歳未満の者が解雇の日から14日以内に帰郷する場合に、必要な旅費を負担しない行為(64条)
  • 生理休暇の取得を拒否する行為(68条)
  • 就業規則の作成届出義務に違反する行為(89条)
  • 就業規則の作成や変更にあたって、労働組合などの意見を聴かない行為(90条1項)
  • 法定の上限を超えた減給を行う行為(91条)
  • 寄宿舎規則の作成届出義務に違反する行為(95条1項)
  • 寄宿舎規則の作成や変更にあたって、寄宿舎に寄宿する労働者の過半数代表の意見を聴かない行為(95条2項)
  • 労働基準監督官が守秘義務に違反する行為(105条)
  • 使用者が労働者に対して法令等を周知しない行為(106条)
  • 使用者が労働者名簿や賃金台帳の作成義務を怠る行為(107条、108条)
  • 使用者が労働関係に関する重要な書類の保存義務を怠る行為(109条)
    など 30万円以下の罰金(120条)

労働基準法違反に対する刑事罰以外のペナルティは?

労働基準法違反に対しては、刑事処分を行うことが基本線となります。

ただし実際には、いきなり逮捕・起訴が行われるわけではありません。
労働基準法違反の疑いがある会社に対しては、まず労働基準監督署による是正勧告・指導などが行われます。
そして、是正勧告・指導を受けてもなお違法状態が改善されない場合に、はじめて刑事処分が行われることになります。

送検事案は厚生労働省・労働局のホームページで公表される

また、労働基準法違反の事案について、労働基準監督署などによる捜査の結果として検察官送致(起訴の前段階)が行われた場合は、厚生労働省および都道府県労働局のホームページに一定期間掲載されます。

(参考:「労働基準関係法令違反に係る公表事案のホームページ掲載について」)

労働基準法違反の事実が世間に公表されてしまうと、会社としての評判に大きな悪影響が生じてしまいます。
そのため使用者としては、労働基準監督署による是正勧告が行われた時点で、誠実に指導に従い、違法状態を解消するよう努める必要があります。

労働基準法違反の公訴時効は?

刑事訴訟法上、人を死亡させた場合を除くすべての罪には「公訴時効」が定められています。
実際に犯罪が行われた時から起算して公訴時効期間が経過すると、以降はその犯罪について起訴することができなくなります。

労働基準法違反を理由とする犯罪については、強制労働の禁止(労働基準法5条)に違反する場合を除いて、すべて「長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金に当たる罪」(刑事訴訟法250条2項6号)に該当します。
そのため、公訴時効は3年です。

なお、強制労働の禁止に違反する行為については、「長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」(刑事訴訟法250条2項4号)に該当するため、公訴時効は7年です。

労働基準法違反による処分事例

令和2年5月31日時点で厚生労働省により公表されていた公表事案から、労働基準法違反により送検された最新の事例の一部を紹介します。

①労災隠し

東京都内の建設会社が、約7.5カ月の休業を要する労災が発生したにもかかわらず、遅滞なく労働者私傷病報告書を提出する義務を怠ったために、送検となりました。

②違法な時間外労働(36協定なし)

東京都内のホテル運営会社が、労働者1名について、36協定の締結・届出をすることなく違法に時間外労働を行わせたため、送検となりました。

③賃金未払い

東京都内の小物メーカーが、労働者5名に対して1か月分の賃金合計約170万円を支払わなかったため、送検となりました。

④解雇予告手当の不払い

東京都内の有限会社が、解雇予告手当を支払わずに労働者を即時解雇したため、送検となりました。

まとめ

使用者が労働基準法に違反すると、最悪の場合、事業主が懲役刑や罰金刑の対象となってしまいます。
もし事業主に対して刑事罰が課されてしまえば、会社の評判も含めて、事業に対して甚大な影響が出てしまうことは避けられません。

そのため、普段から労働基準法を遵守することを意識して、労働基準監督署から違法行為を警戒されないように努めておくことが重要です。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
本記事は労働問題弁護士カフェを運営するエファタ株式会社の編集部が執筆・監修を行いました。
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