未払い残業代は退職後でも請求可能?

未払いの残業代があっても会社に在籍中は、会社との関係性が悪化することを心配して、会社への残業代請求を控えてしまう方がいます。
このような場合には、会社を退職後に「残業代請求」をするとよいでしょう。
ただし、退職後の残業代請求では、証拠収集が難しかったり、時効が迫っているなどさまざまな問題がありますので、退職前からしっかりと準備しておくことが大切です。
今回は、退職後の未払い残業代請求の方法や注意点などについてわかりやすく解説します。
目次
1. 未払い残業代は退職後でも請求できる
従業員が超過労働を行った場合、会社は法的に残業代を支払う責任があります。
残業代の支払い義務は、法律上の義務ですので、労働者が会社を辞めたからといって消滅することはありません。そのため、未払い残業代がある場合には、会社を退職した後でも請求することが可能です。
ただし、会社に在籍中だと未払いの残業代があったとしても会社との関係性の悪化を危惧して、残業代の請求を控えてしまうこともありますが、退職後であればそのような心配はありませんので、気兼ねなく残業代請求をすることが可能とも言えます。
2. 手元の証拠がない場合はどうする?
しかし、会社を退職後だと未払いの残業代の存在を立証する証拠を手に入れるのが難しくなります。
手元に証拠がない場合にはどのようにすればよいのでしょうか。
(1)未払い残業代の請求をする際には証拠が重要
会社が労働者からの未払い残業代請求に素直に応じてくれればよいですが、多くのケースでは残業の有無および時間に関して争いが生じます。
そのような場合には、残業代を請求する労働者の側で残業をしたことおよびその時間を証明しなければなりません。これらを立証するための証拠がなければ、会社との交渉や裁判で残業代の支払いを認めてもらうことができません。
そのため、未払いの残業代を請求するには、残業をしたことおよびその時間を立証するための証拠が非常に重要となります。残業代請求に必要な証拠としては、主に、以下のようなものが挙げられます。
- 雇用契約書
- 就業規則
- 給与明細
- タイムカード
- シフト表
- 業務日報
- PCのログデータ
- 入退室記録
(2)手元に証拠がない場合の対処法
すでに会社を退職していて、手元に証拠がないという場合には残業代請求を諦めなければならないのでしょうか。実は、会社を退職後であっても残業代請求に必要な証拠を集める方法はあります。
①会社に対して証拠の任意開示を求める
会社は、労働者の労働時間を適正に把握する義務があり、タイムカードなどにより労働時間を正確に記録すべきとされています。また、会社には、労働者名簿、タイムカード、賃金台帳、勤怠ソフトのデータなどの労働関係上重要な書類を3年間保存する義務があります。
労働者が会社を退職した後でも、未払い残業代を請求するために必要な証拠が会社に残されている可能性がありますので、まずは、会社に対して、必要な証拠の開示を求めてみるとよいでしょう。
②裁判所に証拠保全の申立てをする
労働者から証拠の開示請求があったとしても、それに応じるかどうかは会社の任意とされています。
多くの会社では証拠の開示に応じてくれますが、なかには任意開示を拒絶する会社もあります。
そのような場合には、裁判所に証拠保全の申立てをすることで残業代請求に必要な証拠を確保できる可能性があります。
証拠保全にも強制力はありませんが、労働者本人が開示請求をするよりも影響力が大きいため、開示に応じてくれる可能性は高いでしょう。
ただし、証拠保全は、証拠保全の必要性があることを裁判所に認めてもらう必要がありますので、簡単な手続きではありません。
3. 退職後に残業代請求をする場合の注意点
会社の退職後に未払いの残業代を請求する場合には、以下の点に注意が必要です。
(1)残業代の請求権には時効がある
残業代の請求権は、残業代が支払われるべき支払日から起算して、3年で時効により消滅してしまいます(ただし、2020年4月1日よりも前に支払日が到来している残業代の時効は2年)。
会社を退職後に未払いの残業代を請求する場合には、在籍中に発生した残業代請求権が時効にかかるおそれがありますので、早めに対応することが重要となります。
内容証明郵便で未払い残業代請求をすることで、時効の進行を一時的に止めることができますので、時効が迫っているときはそのような対応も検討しましょう。
(2)会社に在籍中から準備をしておく
未払いの残業代請求に必要な証拠が手元にない場合でも、会社への任意開示請求や証拠保全の申立てによって、証拠を確保することができます。
しかし、このような手続きを踏んでいると実際に残業代請求をするまでに時間がかかり、時効により権利が消滅してしまうおそれがあります。また、悪質な会社では、上記の手続きでも証拠の開示に応じないこともあります。
そのため、会社への残業代請求をお考えの方は、会社に在籍中から必要な証拠を集めておくことが大切です。残業代請求を有利に進めるためにも、必要な証拠を確保してから、会社を辞めるべきでしょう。
4. 未払いの残業代の相談ができる窓口
残業代の未払いでお悩みの方は、労働基準監督署または弁護士に相談してみるとよいでしょう。
(1)労働基準監督署
労働基準監督署とは、企業が労働基準法や労働安全衛生法などの労働関係法令を遵守するよう指導・監督する機関です。
企業に労働基準法違反などがある場合には、労働基準監督署による立ち入り調査、指導、是正勧告などの方法により違反状態の改善が図られます。
残業代の未払いがある場合には、労働基準法違反となりますので、労働基準監督署に相談することで、未払いの残業代回収に向けたアドバイスを受けることができます。
また、労基法違反を申告すれば、労働基準監督署による指導や是正勧告などが期待できます。
(2)弁護士
未払いの残業代請求をお考えの方は、弁護士に相談をするのがおすすめです。
労働基準監督署の指導や是正勧告には、強制力がありませんので、会社によっては支払いに応じてくれないこともあります。
また、労働基準監督署は、労働者の代理人として実際に未払いの残業代の回収を行ってくれるわけではありませんので、会社との交渉などの具体的な対応は労働者自身で行わなければなりません。
弁護士であれば労働者の代理人として会社との交渉、労働審判の申立て、訴訟の提起などを行うことができますので、未払い残業代請求に関する労働者の負担は大幅に軽減されます。
5. まとめ
未払い残業代は、会社を退職後であっても請求することができます。会社に気兼ねなく請求できるなどのメリットがあるため、会社を退職するタイミングでこれまでの残業代を請求するケースが多いです。
しかし、退職後に未払い残業代を請求する場合だと時効や手元に証拠がないなどの問題が生じることがありますので、退職前からしっかりと準備しておくことが大切です。
未払いの残業代請求にあたっては専門家のサポートが必要となりますので、まずは弁護士にご相談ください。