労働審判とは|費用や流れ、自分で弁護士なしでいけるかを解説
給料の未払いなどの労働問題を解決するための手段の一つとして「労働審判」があります。 この記事では、労働審判とはなにか…[続きを読む]
会社から突然解雇されてしまった場合、まずは不当解雇を疑いましょう。
不当解雇の場合、基本的には解雇の無効や、就労不能期間にかかる賃金相当額の賠償を求めて会社と争うことになります。
これに加えて、不当解雇が悪質なケースでは、会社に対して慰謝料を請求できる場合があります。
この記事では、
などについて、専門的な観点から解説します。
会社からいきなり解雇されてしまった場合、労働者としては強い被害感情を抱くことでしょう。
そのため、会社からできるだけ多くの解決金や和解金、慰謝料を獲得したいと考えるのは自然なことです。
しかし、実は不当解雇のケースにおいて、「慰謝料」という名目で会社に金銭の支払いが命じられることはそれほど多くありません。
労働者側の不当解雇の主張が認められる場合、会社は労働者に対して、就労不能期間に対応する賃金を相場通り支払う義務があります。
多くのケースでは、会社から労働者に対する賠償は、この就労不能期間の賃金相当額に限られています。
というのも、労働者が不当解雇によって受けた精神的苦痛は、就労不能期間の賃金相当額の支払いを受けることによって、原則的には治癒されると考えられているためです。
つまり、よくある不当解雇の事例の範疇にとどまる場合には、就労不能期間の賃金相当額に上乗せして「慰謝料まで支払ってもらうことは難しい」「払わないことが多い」ということになります。
ただし以下解説するとおり、正社員であってもパートやアルバイトであっても不当解雇の慰謝料相場がないわけではありません。
ただし、解雇の態様が悪質であり、労働者の被った精神的損害が就労不能期間の賃金相当額の支払いを受けただけでは治癒されないと判断される場合には、別途相場に近い慰謝料の支払いが認められることもあります。
たとえば、以下のようなケースでは慰謝料が認められる可能性が高いと考えられます。
不当解雇の慰謝料は、あくまでも就労不能期間に対応する賃金相当額とは別に、労働者の被った精神的損害を補償するためのものです。
そのため、実際にはそれほど高額な慰謝料が認められるケースは少なく、以下の金額相場におさまることが多いです。
どの程度の金額の慰謝料が認められるかは、不当解雇の悪質性や労働者の立場などによって変わります。
特に労働者の立場については、アルバイトよりも正社員の方が、解雇されることによって生活の糧を失うという意味合いが強いため、慰謝料の相場金額も高額になる傾向にあるといえます。
一方「試用期間中の労働者」については、通常の正社員と全く同じとはいえないものの、雇用に関して実質的に通常の正社員に近い保護が与えられています。
そのため、通常の正社員と比較して慰謝料の相場金額が大きく下がることはないものと考えられます。
なお、会社側が一度行った不当解雇を後に撤回したとしても、労働者が一定期間就労できなかったこと、また解雇時に精神的損害を被ったことがなかったことになるわけではありません。
そのため、会社側が解雇を撤回した場合であっても、会社の反省・謝罪によって労働者の精神的損害が癒えたと認められる場合を除いて、なお慰謝料請求が相場金額通り、認められる可能性はあるものと考えられます。
不当解雇の慰謝料が相場通り、認められた3つの裁判例を紹介します。
労働者2名が会社の金を横領したことを理由に懲戒解雇された裁判例です。
この事案では、実際には横領の事実は証拠上認められず、かつ会社による懲戒解雇の判断も綿密な調査に基づいて行われたものではないことが認定されました。
その上で、懲戒解雇という再就職にも少なからず影響を与える重大な処分を、このような軽率な判断により行ったことを理由に、会社に対して労働者への慰謝料支払いが命じられました(それぞれに対して150万円、100万円)。
上記の不当解雇の慰謝料の相場金額と裁判例が同様の金額であることが分かります。
健康保険組合が、あまり利用されていない健康相談室に勤務している保健師を整理解雇した裁判例です。
この事案では、整理解雇の要件を満たしていないとして、整理解雇が解雇権濫用により違法であると判断されました。
その上で、
を理由として、解雇期間中の賃金が支払われることでは償えない精神的苦痛が生じたと認定され、100万円の慰謝料の支払いが命じられました。
こちらも上記の不当解雇の慰謝料の相場金額と裁判例が同様の金額であることが分かります。
証券会社が、試用期間を6ヶ月と定めて採用した労働者を、試用期間途中の3ヶ月で解雇した裁判例です。
この事案では、証券会社による留保解約権の行使による解雇は、客観的に合理的な理由がなく違法であると判断されました。
その上で、証券会社が自ら勧誘して競合他社を退社させて採用したにもかかわらず、わずか3ヶ月ほどで成績不振を理由に解雇したことは性急に過ぎるとして、就労不能期間の賃金相当額とは別に慰謝料150万円の支払いが認められました。
こちらも上記の不当解雇の慰謝料の相場金額と裁判例が同様の金額であることが分かります。
不当解雇を理由として、実際に会社に対して慰謝料を請求する際の流れについて解説します。
不当解雇の主張をするためには、会社が主張する解雇理由を把握した上で、それに対して適切に反論をすることが重要になります。
そのため、まずは会社に対して解雇理由証明書の交付を請求しましょう。
なお、解雇理由証明書の交付は、労働基準法22条1項に基づき、使用者である会社に対して義務付けられています。
会社による解雇の理由が明らかになったら、その内容を精査して適切な反論を考えた上で、会社との交渉に臨みましょう。
ご自身で相場通りの解決金・和解金を請求するための交渉をすることも可能ですが、会社と交渉を行う際には「弁護士に相談」することをおすすめします。
会社と労働者では、経済的・社会的に立場の違いが大きく、労働者側に不利な交渉になりやすいといえます。
この交渉力の格差を埋めるため、法律の専門家である弁護士を伴って交渉を行うことは非常に有効となります。
会社との話し合いがまとまらず、慰謝料を払わない場合には、法的手段を講ずることになります。
労働問題を解決するための迅速な法的手続きとして、労働審判があります。
労働審判では、裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会の審理の末、審判という形で労働問題への解決案が提示されます。
労働審判は、原則として3回の期日で結審するため、訴訟で不当解雇を争うよりも迅速に問題が解決できる可能性があります。
労働審判の結果に不服がある場合には、裁判所に対して訴訟を提起することにより、会社と徹底抗戦するほかありません。
労働者が裁判所に対して訴状を提出した後は、おおむね1か月ごとに1度の口頭弁論期日が設定されます。
各口頭弁論期日では、労働者と会社の双方から主張と証拠の提出が行われ、裁判所が両者の主張内容を突き合わせて事実認定を行います。
そして、最終的には判決が言い渡され、当事者は判決の内容に従った権利を取得し、または義務を負担することになります。
判決に不服がある場合には、判決書の送達を受けてから2週間以内に高等裁判所に対して控訴しなければなりません。
労働者・会社のどちらからも控訴がされない場合、判決は確定します。
会社に対して不当解雇の慰謝料を請求する際、相場より高額な慰謝料を獲得するためのポイントを解説します。
すでに解説したとおり、不当解雇のケースにおいて、就労不能期間の賃金相当額とは別に慰謝料の支払いが認められるケースは例外的で、払わないケースが多いです。
そのため、不当解雇の慰謝料を相場以上に獲得するためには、会社による解雇が悪質であることを、証拠を積み上げて立証しなければなりません。
会社による解雇が悪質であることを示すには、会社と労働者の間で実際に行われたやり取りの内容を客観的な証拠により証明しましょう。
その上で、解雇の経緯が労働者に対して著しく酷であることを説得的に述べることが有効です。
会社と労働者の間のやり取りを証明するための証拠としては、以下のようなものが考えられます。
また、慰謝料は不法行為により生じた精神的損害を賠償するものという位置づけになりますので、労働者が不当解雇により被った精神的損害を立証する必要があります。
どの程度の精神的損害を負ったかについては、医師の診断書が有力な証拠となります。
診断書の中では、訴訟などの際に証拠として利用しやすくするため、治療の内容と症状の深刻度を具体的かつ詳細に記録してもらいましょう。
労働審判委員会や裁判所に対して不当解雇による被害をより説得的に説明するためには、法律の専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士は、労働審判や訴訟において不当解雇の慰謝料が認められるためのポイントを熟知しています。
そして、重要となるポイントに沿った主張・立証活動を戦略的に展開することにより、労働者が得られる成果がもっとも大きくなるように尽力してくれます。
また、弁護士は労働審判や訴訟の手続きにも精通しています。
そのため、弁護士に依頼をすれば、労働者が自分でこれらの手続きを取る場合よりも、時間的・精神的な負担を格段に軽減することができます。
このように、不当解雇の慰謝料問題を弁護士に相談・依頼するメリットは大きいので、まずは弁護士に悩みを相談してみることをおすすめします。
就労不能期間の賃金相当額とは別に、裁判例にあるような相場通りの不当解雇の慰謝料が認められるハードルは高いですが、会社による不当解雇の悪質性の程度などによっては、慰謝料の支払いが認められる可能性があります。
不当解雇の慰謝料を獲得したい、さらにできるだけ高額な慰謝料を認めてもらいたいという場合には、法律的な取扱いを踏まえた主張・立証を、弁護士とともに戦略的に準備する必要があります。
不当解雇の被害に遭ってしまったという方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。