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パワハラと指導の違いは?部下を叱責してはいけないのか?

パワハラ・いじめ
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最近は、部下に仕事上の指導をしただけなのに、「パワハラだ」などと言われることが多くなり、上司の方の立場にとっては、部下を厳しく指導をすることに難しさを感じてきているのではないでしょうか。

部下への指導は、上司として当然なすべきことであり、なんでもかんでも「パワハラ」などと言われると、仕事になりませんし、指導・教育ができません。

では、どこまでがパワハラで、どこまでが指導といえるのでしょうか。

この記事では、パワハラと指導の違いや、厳しい叱責・教育・注意等との線引き・境界線、パワハラと指導の裁判例などについて、分かりやすく解説していきます。

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パワハラとは簡単に?|厚生労働省の定義

パワハラとは「パワーハラスメント」のことをいいます。

厚生労働省は、職場のパワーハラスメントについて、次のように定義しています。

「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」

パワハラの判断基準

上記の定義から分かるとおり、パワハラにあたるか否かの判断となる基準は、①職場の地位や優位性を利用しているか否か、②業務の適正な範囲を超えているか否か、③精神的苦痛・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させているか否かの3点となります。

以下、この3点について解説します。

職場の地位や優位性を利用しているか否か

パワハラは一般的には、上司や先輩がその地位に基づいて部下や後輩に対して行われることが考えられます。

もっとも、単に形式上、上司であるというだけでその地位や優位性を利用していると判断されることはありません。

「反論できない立場である場合」や、「指示に従わなければ職務上の評価に繋がる場合」などに、その地位や優位性を利用していると判断されます。

そのため、このような優位性が認められるのであれば、上司から部下へのパワハラに限らず、同僚同士や部下から上司へのパワハラが認められることもあります。

(実際に、部下から上司へのパワハラが認められた裁判例として、「東京地方裁判所・平成21年5月20日判決」や「京都地方裁判所・平成27年12月18日判決」があります。内容は後述致します。)

業務の適正な範囲を超えているか否か

会社の業務として適正とされる業務の範囲を超えているか否か、が判断基準となります。

全く業務とは関係なく、個人的に「金銭の貸し借りを強要」することや、「個人的な用事を命令する」こと、ちょっとしたミスに対して「土下座を強要する」ことなどは、適正とされる業務の範囲を超えていると考えられます。

精神的苦痛・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させているか否か

相手に精神的苦痛や身体的苦痛を与えたか否かが判断基準となります。

「死ね」や「辞めろ」などの暴言を、毎日のように繰り替えして行うことは、相手に精神的苦痛を与える可能性があります。

もっとも、精神的苦痛や身体的苦痛は人それぞれ受け止め方が異なります。

そこで、裁判所は精神的苦痛あたるか否かについては「平均的な心理的耐性を有する者を基準として、客観的に判断する」としています(福岡高等裁判所・平成20年8月25日判決)。

パワハラの具体的な6つの類型

厚生労働省は、判例や個別労働関係紛争処理事案に基づいて、以下の6つの類型を職場パワハラの典型例として示しています。

1.身体的な侵害

殴る・蹴る・胸ぐらをつかむ・頭を叩くなどの暴行・傷害行為が挙げられます。
また、身体に対して直接攻撃を加える行為のみならず、立ちっぱなしで事務仕事をさせる行為や、たばこのニオイがする者に対して、大型扇風機を複数固定して直接強風を当て続けるという行為(東京地方裁判所・平成22年7月27日判決)も、パワハラにあたるとされます。

2.精神的な侵害|人前での叱責等

「死ね」「辞めろ」「あほ」などの暴言行為が挙げられます。

また、他の社員がいる前で必要以上に叱ったり、プライベートな事項を社内中に広めたりすることで、精神的苦痛を生じさせることもパワハラになる可能性があります。

3.人間関係からの切り離し

一人だけ席を隔離したり、強制的に自宅待機にさせたり、全員に無視をさせるなどの行為が挙げられます。
また、直接業務には関係のない飲み会でも、職員全員が呼ばれる歓迎会や送迎会に出席させないなどの行為は、パワハラにあたる可能性があります。

4.過大な要求

業務上明らかに達成不可能なノルマを課すことや、わざと終業時間ギリギリになって過大な仕事を繰り返し押しつけるなどの行為が挙げられます。
また、その人の能力や経験を超える無理な指示を行うことも、パワハラにあたる可能性があります。

5.過小な要求

能力や経験があるのに、コピーやお茶くみなどの単純作業しかさせないことが挙げられます。
入社したばかりであれば、単純作業であっても直ちにパワハラとはいえませんが、いつまでたっても単純作業しか与えず、程度を超える場合にはパワハラにあたる可能性があります。

6.個の侵害

プライベートな内容に過剰に踏み入る行為が挙げられます。

宗教や信条を公表・批判したり、交際相手についての質問を過剰にしたりすることで、相手に精神的苦痛を与え、職場環境を害した場合には、パワハラにあたる可能性があります。

また、勤務時間外のプライベートな時間にまで義務のないことを行わせるなどの行為も、パワハラにあたる可能性があります。

無理矢理朝まで飲み会に付き合わせ、肩もみ・自宅の掃除・自家用車の洗車・私用の送迎などの雑用を一方的に命じ、過剰にメールを送ったりしたなどの行為がパワハラにあたるとされた裁判例もあります(さいたま地方裁判所・平成16年9月24日判決)。

パワハラと厳しい指導の違い|線引き・境界線

パワハラと受け止めるか、指導と受け止めるかは、その人の性格や人間関係、職場環境によって様々ですので、「パワハラ」と「指導」の境界線や線引きを明確につけることは難しいと考えられます。

そのため、パワハラと指導の違いは、「裁判例などを参考にして判断」するしかありません。

また、パワハラと指導は、その目的や業務上の必要性の観点からも違いがありますので、以下の基準も参考になります。以下の基準は、人事院がつくった「パワー・ハラスメント防止ハンドブック」に記載されているものですので、興味がある場合には調べてみてもいいかもしれません。

①目的の違い

<パワハラ>
相手を馬鹿にしたり、排除することを目的としています。

<指導>
相手の成長を促すことを目的としています。

②業務上の必要性の違い

<パワハラ>
業務上の必要性はありません。
業務上の必要性があったとしても、不適切な内容であれば許されません。

<指導>
業務上の必要性があります。また、健全な職場環境を維持するためには、必要なことです。

③態度の違い

<パワハラ>
威圧的・攻撃的・否定的・批判的な態度です。

<指導>
肯定的・受容的・自然体な態度です。

④タイミングの違い

<パワハラ>
過去のことを繰り返して叱られることがあります。また、相手の状況や立場を考えずに行われます。

<指導>
タイムリーにその場で行われることが多いです。また、相手の状況を考えて、受け入れる準備ができているときに行われます。

⑤誰の利益かの違い

<パワハラ>
自分の気持ちや都合が中心で行われます。基本的に、自分の利益を優先して行われます。

<指導>
組織にも相手にも利益が得られます。

⑥自分の感情の違い

<パワハラ>
イライラ・怒り・不安・嫌悪感などの感情です。

<指導>
好意・穏やか・きりっとした感情です。

⑦結果の違い

<パワハラ>
部下が委縮し、職場の雰囲気が悪くなります。また、退職者が多くなります。

<指導>
部下が責任をもって発言・行動することになります。また、職場の雰囲気が良くなり、仕事の効率も上がります。

パワハラに関する裁判例

部下から上司へのパワハラが認められた裁判例

京都地方裁判所・平成27年12月18日判決

<事案>
部下Xが、上司Yに対して、「給与が高いくせに仕事ができない」などと暴言を吐き、また、病気でうまく字が書けない上司Yに対して、「日本語わかっていますか」という辛辣な発言をしました。
その後、上司Yは精神的に追い詰められ、うつ病に罹患してしまいました。

<判決>
裁判所は、部下から上司への逆パワハラの場合には、①上司の業務上の経験や適性の有無、②上司の部下に対する監督権限の有無、③部下の不適切な行動を容認するような状況、などの事情を総合的に考慮して、部下の上司に対する優越的な関係を背景とした言動といえるか否かを判断するとしました。

その上で、裁判所はこれらを総合的に評価して、部下Xのパワハラを認めました。

東京地方裁判所・平成21年5月20日判決

<事案>
部下Xが、上司Yについて「Yが売上を着服している」「Yが金庫から金銭を盗んだ」「Yが女性社員にセクハラをしている」「Yが不倫をしている」などと記載したビラを配布し、Yの誹謗中傷を行いました。
これによりYは対応に追われ、会社をクビになりました。
その後、Yは精神的に病んでしまい、うつ病を発症し自殺するに至りました。

<判決>
裁判所は、総合的に判断して、部下Xによるパワハラを認めました。

パワハラが認められた裁判例

東京高等裁判所・平成5年11月12日.判決

<事案>
教員Yは、Yが勤めるX高等学校から、職員室での隔離、何らの仕事も与えられないまま別室へ隔離、自宅研修などの命令、をされていました。別室への隔離は約4年6カ月にわたり、自宅研修は5年以上にもわたりました。
Yは、X高等学校の行為はパワハラにあたるとして、X高等学校を経営する学校法人に対して損害賠償を請求しました。

<判決>
裁判所は、「労働者に対して通常感受すべき程度を超えて、著しい精神的苦痛を与える場合」には業務命令権の濫用として無効となり、パワハラにあたるとしました。

そのうえで、教員の仕事は生徒に対する指導・教育であり、これをさせずに隔離することは、本人の同意があるなど特段の事情がない限り、「通常感受すべき程度を超えて、著しい精神的苦痛を与える場合」にあたるとしました。

結論として、X高等学校による隔離等の行為をパワハラと認め、精神的苦痛による損害賠償請求として、600万円の支払を命じました。

パワハラではない事例|パワハラが認められなかった裁判例

静岡地方裁判所・平成26年7月9日判決

<事案>
部下Yは上司Xから、施設利用者獲得のためのチラシ配布の指示を受けました。また、上司Xから叱責をされることもありました。そこで部下Yは、上司Xの行為をパワハラであるとして、損害賠償請求をしました。

<判決>
まず、裁判所はXの行為により、Yが相当程度の苦痛を受けたことは認めました。
しかし、施設利用者獲得のためのチラシの配布や叱責は、「あくまで業務遂行の目的に出たものであり、指示や指導内容が職務上不当とまではいえない」としました。
その結果、Xの行為はパワハラにはあたらないとしました。

大阪地方裁判所・平成25年12月10日判決

<事案>
後輩Yは会社の先輩Xから、暴言・暴力・徹夜での作業の命令などによるパワハラを受けたとして、損害賠償を請求しました。
Yは会社に対して、Xからのパワハラについて相談をしていましたが、会社は「上司の言うことは神様の言葉に等しい。」などと言い、Yの相談に聞く耳を持ちませんでした。

<判決>
裁判所は、Xによるパワハラ行為は認められないと判断しました。

この裁判では、YとXの言い分が一致せず、Xのパワハラ行為を裏付ける証拠が十分でなかったことから、Xによるパワハラを認めることができませんでした。

パワハラを認定するためには、十分な証拠が必要であることが、この裁判例からわかります。

まとめ:「指導できない」ではなく注意の仕方を考えよう

業務上の適正な範囲を超えて、相手に精神的苦痛等を与え、職場環境を悪化させた場合にはパワハラになります。

パワハラと指導の境界線・線引きについて、明確な基準はありませんが、解説した裁判例や基準が参考になります。

業務上、指導を行う際には注意をするよう心がけてみましょう。

単なる指導にすぎないのに、理不尽に「パワハラだ」といわれる「逆パワハラ」の場合には、法務担当者に相談してみることや、外部の弁護士に相談してみることをオススメします。

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