労働基準法の改正のポイントと注意点【2020年度版】
2019年4月1日に、従来の内容が大きく変更された改正労働基準法が施行されました。 改正法の中では、働き方改革などを…[続きを読む]
働き方改革関連法が成立・労働基準法の改正等により、2019年4月から年次有給休暇の取得が義務化されました。
これは、会社が年5日の年次有給休暇を労働者に取得させなければならないとするもので、罰則も設けられています。
ただし、この有給休暇取得義務化には抜け道があり、中小企業などの中にはすでに抜け道を利用している企業もあるようです。しかし、抜け道の利用にはリスクも伴います。
そこで、この記事では、年次有給休暇取得義務化で何が変わったのか、その罰則と抜け道のリスクについて解説します。
目次
有給休暇の取得義務化については、①対象者、②年5日の有給休暇の時季指定義務、③就業規則への規定、④年次有給休暇管理簿の作成・保存義務という4つのポイントを押さえておく必要があります。
2019年3月までは、会社には年次有給休暇を労働者に取得させる義務はありませんでした。
もちろん、年次有給休暇は、労働者の権利として労働基準法39条には定められていましたが、会社が年次有給休暇を労働者に取得させなかったとしても、特段罰則などはなかったということです。
これが労働基準法の改正により、2019年4月から、会社に対して年5日の年次有給休暇を労働者に取得させることが義務付けられました。
なお、有給休暇義務化以外にも労働基準法の改正による変更点はあります。下記のページをご参照ください。
有給休暇の取得義務化は法定の「有給休暇が10日以上付与されている労働者」が対象となっています。
つまり、フルタイムの正社員であれば勤続年数が6ヵ月以上、出勤率が8割以上であれば対象者になります。
また、正社員でなければ有給休暇はもらえないと思っている方もいますが、パートやアルバイトであっても、所定労働日数に応じて有給休暇の権利が付与されます。
たとえば、具体的な例をあげると、下記のようになります
・週4日勤務のパートの方であれば、勤務開始から3年6ヶ月で10日の有給休暇の権利
・週3日勤務のパートの方であれば、勤務開始から5年6ヶ月で10日の有給休暇の権利
そのため、これらの方も有給休暇の取得義務化の対象となります。
さらに、この対象には「管理監督者」も含まれるので、管理監督者であるからといって有給休暇の取得ができていない場合には注意が必要です。
有給休暇の取得義務化では、有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に「5日」消化させなければならないと定められました。
これを有給休暇の「時季指定義務」といいます。
有給休暇の取得日を指定する場合は、労働者の意見を聴く必要があります。
そして、ただ労働者の意見を聴けばいいというわけではなく、できる限り労働者の希望に沿った時季に取得できるように労働者の意見を尊重するように努めなければなりません。
意見を聴取する方法としては、面談や年次有給休暇取得計画表、メールなどの方法が考えられます。
なお、既に5日以上の有給休暇を取得している労働者については取得日を指定する必要はありませんし、また指定することもできません。
有給休暇に関する事項は就業規則に必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項です。
そのため、会社が年次有給休暇の時季指定を行う場合には、時季指定の対象となる労働者の範囲や時季指定の方法などについて、就業規則に記載する必要があります。
年次有給休暇の取得義務化に伴い、会社は、労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成して3年間保存しなければならなくなりました。
年次有給休暇管理簿とは、年次有給休暇の時季や日数、基準日を労働者ごとに明らかにした書類をいいます。
そして、この年次有給休暇管理簿は、有給休暇を与えた期間中とその期間が終了してから「3年間は保存する」必要があります。
年次有給休暇管理簿は、労働者名簿や賃金台帳とあわせて作成しても構いません。また、必要なときにいつでも出力できる仕組みとなっていれば、システム上で管理することも可能です。
なお、年次有給休暇管理簿の作成と保存義務については、違反したことによる罰則はありません。
しかし、労働者が有給休暇を確実に取得できているか把握するために重要になるので、年次有給休暇管理簿の作成は怠らないようにする必要があります。
年次有給休暇の取得義務化については、それを怠った場合、会社に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。
具体的には、以下のシチュエーションで罰則が科されることになります。
年5日の有給休暇を従業員に取得させなかった場合、会社に30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。
この罰則は会社ごとではなく、労働者ごとに科されることになります。そのため、有給休暇を5日以上取得できていない従業員が10人いた場合には、最大で300万円の罰金が科される可能性があります。
有給休暇を取得させていない労働者が多数にのぼる場合には、罰金も多数になる可能性があるため、注意が必要です。
会社が有給取得の時季指定を行うにもかかわらず、その旨が就業規則に記載されていない場合も、30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。
労働者には5日以上有給休暇を取得させているから大丈夫と安心せずに、就業規則についてもしっかり改訂しておきましょう。
労働者が有給休暇の取得を請求しているにもかかわらず、労働者の請求する時季に所定の有給休暇の取得を認めなかった場合には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条1号)。
これは年5日以上の有給休暇を取得させなかったり、就業規則に時季指定について記載しなかったりしたことよりも罰則が重くなっているので注意が必要です。
年次有給休は労働者の心身の疲労を回復するために重要なものなので、労働者の有給休暇の権利はできる限り尊重するようにしましょう。
以上のように、年次有給休暇は年5日取得させなければ罰則の対象となってしまいます。
しかし、人手不足などから労働者に休まれては困るという会社もあるのが実情です。そのため、できる限り有給休暇を労働者に使わせないで済む、取れないようにする方法はないかと考える会社もあります。
実は、有給休暇の取得義務化については、抜け道があります。ただし、これらの抜け道は、正しく手続きを踏まなければ法律違反となってしまうリスクもあります。
そこで、以下では有給休暇の取得義務化の抜け道とそのリスクについて解説します。
多くの会社では、お盆やお正月などについては特別休暇として休みになっています。
有給休暇の取得義務化の抜け道としては、この特別休暇を有給休暇にあてるという方法があります。
お盆やお正月については、法定の休日ではなく、会社が任意に特別休暇として定めているものなので、それを廃止すること自体は問題ありません。
しかし、もともと「特別休暇となっていたものを廃止して労働日にする」というのは、労働者にとって不利益な労働条件の変更となります。そのため、特別休暇を廃止するためには、従業員全員の同意を得て就業規則を変更する必要があります。
この手続きを取らなければ、就業規則の変更が無効となってしまう可能性があります。
また、たとえ従業員全員の同意を得られたとしても、有給休暇の取得を促進するという有給休暇の取得義務化の趣旨には反することになってしまいます。そのため、労働基準監督署から指導を受ける可能性はあります。
さらに、休日が減ってしまうことで従業員のモチベーションも下がって生産性の低下や離職率の上昇にもつながってしまう可能性があります。
つまり、このような抜け道はかえって会社にとって不利益となってしまうかもしれません。
一般的に日本の会社では土日や祝日を休日としていることが多くなっています。土日の固定ではなくとも、週休2日制をとっている会社も多いです。
有給休暇の取得義務化の抜け道としては「このうち月に1〜2日を労働日にする」という方法があります。
労働基準法上は、最低でも週に1日もしくは4週間で4日の休日があればよいので(労働基準法35条)、1ヶ月のうちに休日が4日あれば問題ありません。
たとえば、抜け道としては、土日を休日としている会社において、月の最初の土曜日は労働日として、その労働日に有給休暇をあてるということが考えられます。
ただし、この抜け道についても、特別休暇を有給休暇にあてるのと同様、労働条件の不利益変更にあたるので、労働者全員の同意が必要です。
この手続きを踏まなければその不利益変更は無効となってしまう可能性があります。
有給休暇の取得義務化の抜け道としては、会社と労働者との間の雇用契約を一度解除することで、10日以上の有給休暇をリセットし、再度雇用契約を締結し直すという方法もあります。
有給休暇の取得義務化の対象となるのは、上述の通り年10日以上の有給休暇の権利がある労働者です。
たとえば、フルタイムの正社員であれば勤続年数が6ヵ月以上、出勤率が8割以上であれば対象者になります。また、週4日勤務のパートの方であれば、勤務開始から3年6ヶ月で10日、週3日勤務のパートの方であれば、勤務開始から5年6ヶ月で10日の有給休暇の権利が発生します。
そこで、これらの労働者の有給休暇の権利が年10日以上発生しないように契約を解除して勤続年数をリセットするというのがこの抜け道の内容です。
たとえば、週4日勤務のパートの方であれば、3年たったら一度雇用契約を解除して再度契約をするということになります。
一度契約を解除して再度契約をするというのも、労働者の同意があれば可能です。
ただ、形式的に契約をリセットしたとしても、実質的には勤務が継続していたといえるような場合には、一つの雇用契約が継続していると判断される可能性もあるため、注意が必要です。
有給休暇取得義務化の抜け道は、実際には従業員全員の同意を得るなど条件が厳しいため、利用が難しくなっています。
そこで、抜け道を使わずに有給休暇を消化させる方法として「計画年休制度で有休休暇を消化させる」ということが考えられます。
有給休暇は、会社と労働組合もしくは労働者の代表が労使協定を結ぶことで、5日を超える分について会社が全労働者を同一の日に休みにしたり、グループごとに休みにしたりするなど、計画的に付与することができます。これを計画年休制度といいます。
たとえば、有給休暇が年に10日付与されている労働者であれば、そのうち5日が計画的付与の対象となります。
この計画年休によって付与される有給休暇も年5日の有給休暇取得義務に含まれるので、この労使協定を結んでおけば有給休暇の取得義務は果たすことができます。また、この計画年休は「事業の繁忙期に合わせて労働者を休ませることができ、誰がいつ休むのか事前に把握できる」ため、事業の見通しを立てやすくなります。
ただし、注意しなければならないのは、計画的付与の対象は、有給休暇のうち5日を超える部分だけだということです。最低限5日については労働者に自由に取得できるようにしなければならないため、注意が必要です。
今般の労働基準法改正により、年5日については必ず有給休暇を取得させなければならないことになりました。中小企業など事業が回らなくなってしまわないよう何とか抜け道を駆使してこの改正に対応しようと考えている会社もあるかもしれません。
しかし、有給休暇は労働者の心身の疲労の回復のために重要な制度です。できる限り有給休暇の取得を促すことが長期的な会社の利益にもつながります。この機会に有給休暇の取得促進に向けて会社内の制度を見直してみるのもいいかもしれませんね。