労働基準法違反に当たるケースは?違反事例と罰則などを解説
使用者と労働者の契約関係において、労働者の権利を守るために制定されたのが「労働基準法」という法律です。 労働基準法に…[続きを読む]
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「有給休暇をとった翌月に給与がいつもより減っていた…」そんな経験をする方がいらっしゃいます。これって違法なんじゃないの?と不安になってしまいますよね。
実際上、会社が有給休暇の給与の計算方法についてどのようなシステムを採用しているのかを知らないと、これが違法か合法かは判断できません。
そこで今回は、有給休暇をとった場合に給与が減ることがあるのかについて解説します。
有給休暇を取ると給与が減ることはあるのか、正社員やパート、アルバイトが有給休暇を取得した場合の給料の計算方法、有給を取って給料が減ってしまった場合の対処法までわかりやすくご説明いたします。
「有給休暇を取ったら給料が減っていた!」というケースが報告されていますが、これは違法なのでしょうか。有給休暇取得で給与が少なくなることはあるのか、通常の給与の6割が最低ラインというのは本当なのか、についてご説明します。
「有給休暇なんだから給与が出るし、減るはずはない」
多くの方がこのようなイメージを持っているでしょう。有給休暇は、労働者にとっては権利の1つです。労働基準法39条に定められており、最近では法定の有給休暇のうち年間5日は必ず取得しなければいけなくなりました。
これは、実際上「有給休暇が取得できない」とする労働者からの声が多くあったためです。
有給休暇の場合は、休んでも給与が支払われます。これは絶対ですが、その金額が変動することはあり得ます。
つまり上記の「有給休暇なんだから給与が減るはずはない」というのは、一部正しく、一部は間違いです。
というのも「会社によって有給休暇を取った場合の給与の計算方法が異なる」からです。どのシステムを採用しているのかによって、有給休暇取得で給与が減るかどうかが変わるということになります。
実際上は、多くの会社は通常通りの給与を支払うシステムを導入していることが多いため、給与が減ることはないと考えている方が多いのでしょう。
このように、有給休暇をとっても休んだ分の給与が支払われないとなると違法ですが、金額が少なくなることはあり得ます。
有給休暇の給与の計算方法には3つの方法があり、このどれかを採用することになっています。具体的には、以下の3つとなります。
・通常通りの賃金を支払う方法
・平均賃金を支払う方法
・健康保険の標準報酬月額を支払う方法
どの計算方法を選ぶかは会社が決定します。労働者が自分で選択することはできません。
ご自身の会社がどの計算方法を選んでいるのかを知るためには、就業規則を確認してみましょう。有給休暇の賃金の計算方法についての記載があるはずです。
ご自身の有給休暇時の賃金が低いと感じている方は、まずは就業規則を確認してみる必要があります。
次に、実際の有給休暇の計算方法について詳しくみていきましょう。有給休暇の賃金に関するよくある疑問についてもお答えします。
先に3つの計算方法があるとお伝えしましたが、実際にどれくらいの額になるのかそれぞれ計算してみましょう。まずは、通常の賃金を支払う計算方法の場合です。
多くの会社はこちらの方法を採用しています。計算が明快で支払い時にややこしくなりにくいためです。
労働者にとっても、「給与が減った」というケースがなくなるため、有利な計算方法といえるでしょう。
普段の給与と変わりがないため「計算する必要は基本的にはありません」。
もっとも、月給なのか、週休なのか、日給なのか等によって計算方法は変わるため、念のため以下に記載します。
・月給の場合 有給休暇の賃金額=月給÷その月の所定労働日数
・週給の場合 有給休暇の賃金額=週給÷その週の所定労働日数
・日給の場合 有給休暇の賃金額=通常支払われる日給
・時給の場合 有給休暇の賃金額=時給×所定労働時間数
通常の賃金を支払う方法を導入している場合は、上記の方法で計算してみてください。
次に、平均賃金を支払う方法と健康保険の標準報酬月額を支払う方法の計算の仕方をご説明します。
まず、平均賃金を支払う方法を導入している場合は、過去3ヶ月の平均賃金が支払われることになります。具体的には、以下の計算方法です。
【平均賃金の計算方法】
・平均賃金=過去3ヶ月の合計賃金÷休日も含む総日数
この方法では、休日も含んだ日数で合計賃金を割ってしまうため、通常の給与より少なくなる可能性があります。そのため労働者にとっては不利な計算方法です。会社の側から見てみると、有利な計算方法となるでしょう。
次に健康保険の標準報酬月額を支払う方法です。この計算方式を導入している場合は、健康保険が定めた基準で計算された賃金が支払われます。この方法を取る場合は、以下の計算方法を用います。
【健康保険の標準報酬月額の計算方法】
・健康保険の標準報酬月額=標準報酬月額÷30
ここでいう「標準報酬月額」は健康保険料を計算するために利用される「仮の月給」です。
給与を計算する部署では、各従業員の健康保険での標準報酬月額を簡単に把握することができるのでこの方法を取るようです。
この方法は、まれに実際の給与より少なくなることがあるため、労働者にとっては不利となることがあります。また会社にとっては簡便な方法と言えるでしょう。
「有給休暇を取った日の給与が6割程度で少なかったけど、これが最低ラインということ?」
有給休暇を取った日の給与が下がっていたという場合に、6割が支払われていたということがあるようです。これは法律上支払わなければいけない最低ラインなのでしょうか?
先にお伝えした通り、会社が平均賃金を支払う方法を選択している場合には有給休暇を取ったときの給与が減ってしまうことがあります。通常はそれほど大きく減額することはありませんが、たまたま直近3 ヶ月の所定労働日数が少なく賃金が低かったということもあるでしょう。この場合には、例外的に以下の計算方法を使うことがあります。
・有給休暇取得時の給与=(直近3ヶ月の賃金総額÷労働日数)×60% or 平均賃金のどちらか金額が多い方
平均給与で計算すると通常の給与よりも少なくなりすぎてしまう場合は上記のような計算方法を使って調整を行います。実際に会社がどのような計算をしたかを見てみないと判断できませんが、「有給休暇の給与は6割の金額を支払われた」というケースの場合は、平均給与額が少なかったことが原因かもしれません。
「アルバイトやパートの場合、有給休暇はもらえない?」「受け取れる場合でも計算方法は異なるの?」など、雇用形態によって有給休暇の取り扱いがどうなるのか不安に思う方多いでしょう。
まず、有給休暇は労働者に認められた権利ですので、パートやアルバイトであっても正社員と同様の条件をクリアすれば有給休暇は受け取れます。具体的には、6ヶ月以上の継続勤務と、所定労働日数の8割以上を勤務していれば問題なく受け取れます。また、計算方法も基本的には同じです。
具体的には、通常通りの賃金が支払われる場合なら「時給×所定労働時間数」で計算できます。
平均賃金の場合も「(直近3ヶ月の賃金総額÷労働日数)×60% or 平均賃金のどちらか金額が多い方」となります。
パートやアルバイトの場合には、平均賃金の方法が計算方法として選択されている場合には、大幅に賃金が少なくなることがあるでしょう。またパートの場合、健康保険の加入条件を満たさないこともあるので、標準報酬月額の計算方法に関しては採用されないことが多いでしょう。
このように、アルバイトやパートでも計算方法は基本的に同じです。
有給をとって給与が減ってしまった場合、労働者ができることはあるのでしょうか?最後に、給与が減ってしまった場合の対処法をお伝えします。
計算方法には3つあるとお伝えしました。そのうち、平均給与額を支払う方法や健康保険の標準報酬月額を支払う方法の場合は給与が減ってしまうことが十分にあり得ます。
そのため、まずは就業規則を確認して計算方法を知った上でご自身でも計算してみましょう。仮にこの方法で同じ金額を算出できた場合には、違法ではありませんので、減った分の給与を請求すること等はできません。
仮に、給与が半分以下になっていたなどの問題がある場合は、労働基準法違反となります。
労働基準法39条9項では、「…平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。」旨を定めているためです。
仮にこの規定に違反している場合には、119条1号により「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」に処される可能性もあります。
ただし、計算ミスの可能性もありますので、会社に確認してみましょう。
会社が不当に有給休暇の給与を低く計算し、支払われるべき賃金を支払わないケースもあります。
この場合は、労働基準監督署に相談すれば調査の上指導が入ることがあるでしょう。また上記の罰則が課されることあり得ます。
また会社にバレずに「適切な賃金を確認したい」「不足する分を支払ってほしい」という場合には、弁護士に相談する方法もあります。
労働関係を扱う法律事務所に、一度相談してみると良いでしょう。
労働者には、有給休暇中の賃金はきちんと受け取る権利がありますので、会社が不当な扱いをする場合には弁護士に相談してください。専門家と一緒に解決しましょう。