契約社員のボーナスは変わらない?最高裁判例&同一労働同一賃金の現状
契約社員として会社に雇われている方の中には、現状正社員と変わらない労働を課されている方も多くいらっしゃいます。
いわゆる「同一労働同一賃金」の原則により、契約社員が正社員と同等の労働を提供している場合には、正社員と待遇を揃えることが法律上義務付けられています。
この原則との関係で、これまでとは変わって「契約社員でも退職金やボーナスはもらえるのか?」という疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。
実際には、契約社員には退職金やボーナスを支給しないというルールを定めている会社も多いですが、このような会社は現状労働法違反に該当するのでしょうか。
同一労働同一賃金の原則については、2020年10月13日と同月15日に併せて5件の最高裁判決が出されました。
かなり詳しい判決になっているので、内容を紐解くことによって、同一労働同一賃金の原則を踏まえた契約社員の待遇について、理解を深めることができます。
この記事では、上記の最高裁判決の内容を踏まえて、契約社員でも退職金やボーナスをもらえるのか、現状変わらないのかどうかなどについて解説します。
契約社員でも正社員と同じように退職金やボーナスはもらえる?
契約社員の待遇が正社員よりも劣るというケースは非常によく見られますが、このような取り扱いは、法律上問題はないのでしょうか。
特に契約社員は、退職金やボーナスを支給されないことも多いため、法律上のルールがどうなっているのかは気になるところでしょう。
以下では、退職金やボーナスを含めて、契約社員の待遇に関する法律上のルールについて解説します。
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、正社員と非正規社員の間の「不合理な待遇差」をなくすことを目的としたルールです。
同一労働同一賃金のルール下では、正社員と非正規社員が同じ条件で労働をしている場合には、賃金をはじめとした「待遇についても同じ」にしなければなりません。
一方、正社員と非正規社員の間で待遇差を設ける場合は、待遇差についての合理的な理由が必要になります。
現状、賞与規程・退職規程の内容によってはもらえることがある
契約社員がボーナスをもらえるかどうかは、会社の賞与規程に定められています。
また、退職金がもらえるかどうかについては、会社の退職規程の定めに従います。
会社によっては、賞与規程・退職規程において、契約社員にもボーナスや退職金を支給するというルールを定めているケースがあります。
この場合には、契約社員であっても、ボーナスや退職金をもらうことが可能です。
会社が契約社員に退職金やボーナスを支払わないのは違法?
一方、賞与規程・退職規程の内容によっては、契約社員には一切退職金やボーナスが支払われないことがあります。
この場合、正社員との待遇差が生じることになります。
そこで問題となるのが、同一労働同一賃金の原則です。
つまり、契約社員に対して退職金やボーナスを支給しないことが、同一労働同一賃金に照らして不合理でないかが判断されることになります。
2020年10月の判決・5件の最高裁判例について
契約社員・アルバイト社員と正社員の間の待遇差について、2020年10月13日に2件、同月15日に3件、併せて5件の最高裁判決が言い渡されました。
これらの最高裁判決では、いずれも同一労働同一賃金の原則に照らして、待遇差が不合理でないかという点が問題となったのです。
アルバイト社員・契約社員が正社員と同等の待遇を求めた
5件の最高裁判決の第一審で原告となったのは、医科大・東京メトロ・日本郵便のアルバイト社員や契約社員です。
各原告はいずれも、正社員との間のさまざまな待遇差について、同一労働同一賃金に違反していることを主張しました。
各原告が違法であると主張した待遇差には、以下のものがあります。
- 賞与(ボーナス)
- 退職金
- 私傷病による欠勤中の賃金
- 夏期休暇、冬期休暇
- 年末年始勤務手当、祝日給
- 扶養手当
- 病気休暇
最高裁は、上記の各待遇差について、それぞれ非常に具体的な検討を行ったうえで、同一労働同一賃金の原則に照らして不合理であるか否かの判断を行いました。
最高裁の着眼点は?
どの最高裁判決にも共通して言えるのは、正社員と非正規社員の間の待遇差が不合理かどうかを最高裁が判断する際には、主に以下の点に着眼しているということです。
①正社員にその待遇が与えられている目的
②その待遇が与えられるための要件
③正社員と非正規社員の業務内容や責任などの差
また上記以外にも、非正規社員から正社員への登用の機会が与えられていたかどうかなど、その他の事情が考慮される場合もあります。
最高裁判決により契約社員(アルバイト社員)には認められなかったもの
最高裁判決では、原告である契約社員(アルバイト社員)が違法性を主張した待遇差のうち、以下のものについては、正社員と同等の待遇に変わることなく、それを認めませんでした。
ボーナス(賞与)
医科大のアルバイト社員は、正社員に対して給与の4.6か月分、契約社員にはその8割のボーナスが支給されていた反面、アルバイト社員にはボーナスが一切支給されなかったことの違法性を主張しました。
最高裁は、正社員にボーナスを支給する目的について、「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図ること」であると認定しました。
そのうえで、正社員とアルバイト社員の間には、全体としての業務の難易度・責任の重さ・配置転換の有無(範囲)などに差があることに着目して、両者の職務の内容に一定の相違があったと指摘しました。
このように、ボーナスを支給する目的や、業務内容などの差を理由として、アルバイト社員にボーナスを支給しないことは不合理とまではいえないと判示しました。
私傷病による欠勤中の賃金
医科大のアルバイト社員は、さらに「私傷病による欠勤中の賃金」が、正社員には6ヶ月間給与全額(その後は休職扱いで20%)が支払われるのに対して、アルバイト社員には一切支払われないことが違法であると主張しました。
最高裁は、私傷病による欠勤中の賃金は、長期雇用を前提とした生活保障・雇用の確保を目的としていると認定しました。
そして、アルバイト社員については長期雇用を前提とした勤務を予定しておらず、原告自身の在籍期間も長くないことを指摘したうえで、私傷病による欠勤中の賃金を交付しないことが不合理とまではいえないと判示しました。
退職金
契約社員に対する退職金の支給要否が問題となったのは、東京メトロのケースです。
東京メトロの契約社員は、10年以上勤務した後に退職した際、退職金が支払われなかったことが違法であると主張しました。
最高裁は、退職金の複合的な性質を指摘しつつ、「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」などの目的から退職金制度が設けられていると認定しました。
そして、正社員と契約社員の業務内容や配置転換の範囲の違いなどを指摘したうえで、退職金の不支給が不合理とまではいえないと判示しました。
最高裁判決により契約社員に認められたもの
逆に5件の最高裁判決の中で、正社員に与えられていた待遇のうち、契約社員に認められたものは以下のとおりです。
夏期休暇・冬期休暇
日本郵便の契約社員は、正社員には3日ずつ与えられていた夏期休暇・冬期休暇について、契約社員には与えられていなかったことが違法であると主張しました。
最高裁は、正社員に与えられた夏期休暇・冬期休暇の目的を、
「年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図る」
ことであると認定しました。
さらに、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は、正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものではないことを指摘しました。
上記を踏まえて、最高裁は、夏期休暇・冬期休暇を付与する趣旨は契約社員にも当てはまるとして、契約社員に対して夏期休暇・冬期休暇を付与しないことは不合理であり違法と判示したのです。
年末年始勤務手当・祝日給
日本郵便の契約社員は、
①12月29日から1月3日までの間に勤務したことに対する年末年始勤務手当が契約社員に支給されないこと、および
②同期間中の賃金が正社員の場合には祝日給扱いになるのに対して、契約社員の場合には通常の賃金であったこと
が違法であると主張しました。
最高裁は、まず年末年始勤務手当について、郵便業務の最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている期間に、労働したことに対して支給される対価であると認定しました。
また、支給金額も勤務時期と時間に応じて一律であることも指摘されました。
さらに、年末年始の勤務を祝日給扱いにしていることについても、ほぼ同様の趣旨から設けられた賃金の割増制度であると認定されました。
結論として最高裁は、年末年始勤務手当・祝日給ともに、制度の趣旨は契約社員にも妥当するものであって、契約社員に対して年末年始勤務手当・祝日給の待遇を与えないことは不合理であり違法と判示しました。
扶養手当
扶養手当も、日本郵便のケースで問題になりました。
正社員に対しては扶養手当が支給されていた一方で、契約社員には支給されていなかったため、日本郵便の契約社員がその違法性を主張したのです。
最高裁は、扶養手当の目的が、正社員の生活保障や福利厚生を図ることによって、長期継続雇用を確保することにあると認定しました。
そして、契約社員の場合であっても、扶養親族があり、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給する趣旨が妥当すると判示しました。
この件での原告は、契約期間を何度も更新していたなどの事情から、長期継続勤務が期待できる状況があったと判断されたため、扶養手当の不支給は不合理であり違法とされました。
病気休暇
日本郵便のケースでは、正社員に与えられていた有給の病気休暇が、契約社員に与えられていなかったことの違法性についても争われました。
最高裁は、正社員に病気休暇を与える目的を、生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、長期継続雇用を確保することにあると認定しました。
そして、契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれる限りは、有給の病気休暇を与える趣旨が妥当し、病気休暇を付与しないことは不合理であり違法と判示しました。
医科大のケースと異なる結論となったのは、本件では原告である労働者の勤続年数が長かったことから、長期継続雇用の見込みが高いと判断されたこと、これに対して医科大のケースではアルバイト社員に過ぎず、長期継続雇用の見込みがなかったことなどの差が影響したと考えられます。
一般論ではなく、事案ごとの判断であることに注意
今回の最高裁判決では、契約社員はボーナス・退職金ともに受け取ることはできないという結果になりました。
しかし、これはあくまで「判決で問題となった事案」に対する判断であって、決して一般論というわけではないことに注意が必要です。
たとえば、契約社員が長期にわたって勤続していて、業務内容や責任の面でも完全に正社員並みの貢献をしているという場合には、契約社員に対するボーナスや退職金の支給が義務付けられる可能性が高くなるでしょう。
そのため、一概に「現状は契約社員はボーナスや退職金をもらえない」「同一労働同一賃金は嘘っぱちで変わらないんだ」と即断してはいけません。
それぞれ個別の事情を入念に検討する必要があります。
まとめ
今回の5つの最高裁判決によって、最高裁が同一労働同一賃金の原則についてどのように考え、現状どのような基準で判断するのかということが見えてきました。
最高裁判決では、契約社員はボーナスや退職金をもらえないという結論で、現状としては変わりませんでした。
ただ、完全に正社員並みの役割や責任を負っているという契約社員の方は、正社員と同様のボーナスや退職金を受け取れる可能性を諦めてはいけません。
契約社員の方で、もし会社からの待遇について法律上の疑問点をお持ちの場合は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。