パワハラの定義とは|どこから?種類・判断基準をわかりやすく解説!
「パワハラ」という言葉を聞いたことがある方は、最近では非常に多くなってきているのではないでしょうか。 パワハラは「パ…[続きを読む]
「終業時間」を終えても、使用者に残業を命じられることがあります。
この場合に、残業命令を断ることはできるのでしょうか?また、残業を強制することはパワハラになるのでしょうか?
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労働基準法32条2項は、「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について8時間を超えて、労働させてはならない。」としています。
1日に8時間を超えて働かせた場合、8時間を超えて働いた時間は「残業」にあたります。
1日8時間を超えて労働者を働かせることはできないのが原則です。1日8時間を超えて労働者を働かせた場合、使用者は6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑に処されます(労働基準法119条1号)。
もっとも、労働者に「残業を命じることができる場合」がいくつかあります。
そのうちの1つが労働基準法36条に該当する場合です。
具体的にいうと、以下の要件「全てを充足」した場合には、残業をさせることができます。
まず「36協定」を締結し届け出る必要があります。
36協定とは、法定労働時間を超えて、また法定休日に労働させることができるようにするために、使用者と労働者の間で定める協定です(労働基準法36条1項)。
使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合と、あるいは労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者と、書面による協定を結び、これを行政官庁に届け出る必要があります。
ただし、36協定は、残業を可能にするための公法上の要件ですので、36協定の締結によって、即労働者に残業する義務が発生するわけではありません。
労働者が残業する法的義務が発生する根拠が必要です。その典型例が、就業規則で残業について定めた場合です。
就業規則には「納期に完納しないと重大な支障を起すおそれのある場合」等には、残業を命じることができる、と規定されていることがあります。
就業規則の内容は、そのまま労働者の義務に影響を与えます。
最高裁は、「使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなす」としています(最判平成3年11月28日LEX/DB27810301。日立製作所武蔵工場事件)。
そのため、上記定めがあれば、個別の同意がなくとも、残業義務が発生することになります。
就業規則に残業について定めがあっても、実際にその規則に該当する場合でなければ、残業義務は発生しません。
そのため、就業規則で定めた場合に該当することも、残業義務が発生する要件となります。
新人であれベテラン社員であれ、上記の要件を充足した場合には残業命令を拒否することはできません。
しかし、36協定や就業規則に残業について定めがあり、かつ就業規則で定めた場合に該当しても「残業を拒否できる場合」があります。以下でいくつか紹介します。
業務上の必要性がある場合であっても、労働者に残業命令に従えないやむを得ない理由があるときには、残業命令に従う義務がないとした裁判例があります(トーコロ事件。東京高判平成9年11月17日EX/DB文献番号28030367)。
例えば、残業を命じられた日に体調が悪いときには、残業を拒否することが出来るでしょう。他方で、単なる私用があるというだけでは、やむを得ない理由があるとは言えないことが多いでしょう。
妊産婦とは、妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性をいいます。使用者は、妊産婦が請求した場合には、妊産婦に時間外労働させてはいけません(労働基準法66条2項)。
36協定には、労働時間を延長して労働させることができる時間を定めなければなりません(36条2項4号)。36協定に定められた延長時間を超えて労働者を働かせることは違法になるので、労働者は、この時間を超えて労働を命じられた場合にはこれを拒否することができます。
パワハラとは、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもので、③その雇用する労働者の就業環境が害されるものをいいます(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第20条の2第1項)。
そのため、残業を命じただけではパワハラにはなりません。
もっとも、以下の場合にはパワハラになる可能性があります。
無理矢理残業を命じられた場合には、まずは36協定や就業規則を確認して、残業をする義務があるかどうかを確認しましょう。36協定や就業規則に残業についての定めがなければ、残業をする必要はありません。また、残業について定めがあった場合でも、36協定で定められた時間を超えて残業する必要はありません。
また「労働基準監督署への申告」もまた1つの手段です。
労働基準監督署とは、労働基準法違反を取り締まる国の機関です。労働基準監督署に労働基準法違反行為について申告すれば、助言を受けたり、当該企業に対して違法行為を止めさせるよう動いてくれることがあります。
また「弁護士への相談」も考えるべきです。残業する義務があるかどうかは法律判断ですので、専門家の判断を聞くことが重要です。弁護士は企業に対して民事上の請求(賃料や損害賠償の請求)も行ってくれます。