労働基準監督署(労基署)の相談事例|労働局との違い・相談できること
労働者が勤務先との関係で問題を抱えてしまった場合には、労働基準監督署(労基署)に相談するのが良いと聞いたことがある方…[続きを読む]
近年、新型コロナウイルスの影響により、業績が大幅に悪化する会社・病院が相次ぎました。
夏のボーナス(賞与)について、多くの会社で減額または不支給の決定が行われ、また看護師のボーナスカット問題も話題になりました。
労働者としては、住宅ローンの「ボーナス(賞与)一括払い」を設定するなど、ボーナス(賞与)を前提とした資金繰りを計画している場合も多いでしょう。
そんな中で突然ボーナス(賞与)が減額・不支給となってしまうと、資金繰りに窮してしまうことになります。
ボーナス(賞与)を会社の裁量で減額・不支給とすることには、法律上問題はないのでしょうか。ボーナスの減額が自分だけ、一人だけの場合や労災を使うとボーナスが減るのかなど、退職予定を伝えるともらえないのか、この記事では、ボーナス(賞与)のカットに関する法律上の問題について詳しく解説します。
目次
ボーナス(賞与)は、月々の給料とは別に、会社から労働者に対して定期的または不定期に支給される賃金です。
労働基準法や労働契約との関係で、会社が労働者に対してボーナス(賞与)を支給する義務はあるのでしょうか。出ない場合は違法ではないのでしょうか。
労働基準法上は、夏・冬のボーナス(賞与)の支給を会社に義務付ける規定はなく、ボーナスが出なくても違法ではありません。
そのため、ボーナス(賞与)を全く支給しない、または支給を完全に会社の任意とする内容の労働契約を締結することも認められます。
労働基準法上はボーナス(賞与)支給義務がないとすると、会社が労働者に対してボーナス(賞与)を支給する義務があるかどうかは、労働契約の内容によることになります。
実際には、多くの会社においてボーナス(賞与)の支給は任意とされています。
たとえば、「会社の業績が悪化した場合などには、賞与を支給しないことがある」という条件が付されているケースが多いでしょう。
その場合には、会社は労働者に対してボーナス(賞与)を支給する義務は原則としてありません。
ただし、詳しくは後述しますが、ボーナス(賞与)減額・不支給の理由によっては、法令上違法の問題を生じる可能性があります。
一方、労働契約上、ボーナス(賞与)を必ず支給することが規定されている場合には、会社は労働者に対してボーナス(賞与)を支給する義務があります。
いずれにしても、労働者が会社に対してボーナス(賞与)を請求する権利があるかどうかは、個別の労働契約や、社員全体に対して適用される就業規則・賃金規程・賞与規程などの定めを確認する必要があるでしょう。
労働者の立場からすると、支給日になって初めてボーナスカットで減額・不支給となったことがわかるようでは、ボーナス(賞与)の支給を前提とした資金繰り計画に大きな影響が出てしまいます。
会社がボーナスカット、減額または不支給とすることを決定した場合、労働者に対して事前に告知・通知する義務はないのでしょうか。
労働契約上、ボーナス(賞与)の支給が会社に義務付けられているケースを除けば、ボーナス(賞与)の支給は会社の裁量に委ねられています。
そのため、減額や不支給の決定についても、原則として会社が労働者に対して通知・告知する義務はありません。
ただし、労働契約上基準となる賞与額などが定められており、支給額が基準を下回る場合には労働者に対して通知することが明示的に規定されている場合には、例外的に通知義務が認められます。
しかしながら、労働契約上は通知・告知の義務がないとしても、支給されると思っていたボーナス(賞与)が突然減額や不支給になる労働者の不利益を考えると、会社としては労働者に対する事前の通知・告知を行う方が望ましいといえます。
ボーナス(賞与)の減額や不支給が事前に通知なし・告知されない場合、ボーナス(賞与)を前提とした資金繰りを前もって見直すことができませんので、労働者は突然経済的な苦境に陥ってしまうリスクがあります。
労働者がこのような事態に追い込まれてしまった場合、会社に対する不信感を抱くことは必至です。
会社としては、法的な義務は別として、労働者に対して誠実に向き合いモチベーションを維持するという観点から、ボーナス(賞与)の減額や不支給の際には事前に労働者に通知する方が良いでしょう。
労働契約上、ボーナス(賞与)の支給が義務付けられている場合には、そもそも会社の一存でボーナス(賞与)を減額・不支給とすることはできません。
この場合は、労働者の個別の同意を取る、就業規則を変更するなどの方法により、労働条件の不利益変更手続きを取ることが必要です(労働契約法9条から11条)。
労働契約上、ボーナス(賞与)の支給が会社の任意とされている場合であっても、あまりにも不当な理由による減額・不支給の決定は裁量権の逸脱または濫用と評価されるおそれがあります。
就業規則や賃金規程などにおいてボーナス(賞与)の支給基準が明記されている場合には、基本的に会社は支給基準に従ってボーナス(賞与)の金額を算定し、労働者に対して支給する義務があります。
このようなケースでは、支給基準に明記されていない理由でボーナス(賞与)を減額または不支給とする場合、会社の裁量権の逸脱として違法となる可能性があります。
一方、就業規則や賃金規程にボーナス(賞与)の支給基準が明記されていない場合には、ボーナス(賞与)の金額決定について会社の広い裁量が認められると考えられます。
この場合、業績悪化や本人の仕事ぶりなど、ある程度抽象的な要素であっても広く考慮した上で、ボーナス(賞与)の金額を決定することが認められます。
意外と多いのが「ボーナスの減額が自分だけ・一人だけ」というケースです。
ボーナス(賞与)に関しては、特定の労働者について他の労働者に比べて著しく不利な取扱いをする場合には、それ相応の理由がなければ「裁量権の逸脱または濫用」として違法の疑いがあります。
自分だけ、一人だけ著しいボーナス減額をされたりということが頻発する場合は、県の労働センターや労働基準監督署、労働問題に強い弁護士に一度相談すべきでしょう。
労働基準法では、一定の事由について、そのことを理由として労働者を不利益に取り扱うことが禁止されるケースがいくつか明文で規定されています。これらの禁止規定に該当するケースでは、当該事由の存在を理由としてボーナス(賞与)を減額することは違法となります。
「企画業務型裁量労働制」とは、いわゆる「みなし労働時間制」のひとつで、ホワイトカラー的な業務に従事する労働者に対して適用可能とされています(労働基準法38条の4第1項)。
労働者に対して企画業務型裁量労働制による「みなし労働時間」を適用するには、当該労働者の同意が必要になります。
この同意を労働者が拒否したことを理由として、使用者は労働者を不利益に取り扱ってはならないとされています(同条6号)。
「高度プロフェッショナル制度」は、2019年の労働基準法改正で導入された比較的新しい制度です。
高度プロフェッショナル制度では、一定水準以上の年収を受け取り、高度の専門的知識を必要とする業務に従事するなどの条件を満たす労働者について、労働時間・休憩・休日および深夜の割増賃金に関する規定が適用除外とされます(労働基準法41条の2第1項)。
高度プロフェッショナル制度についても、企画業務型裁量労働制と同様、適用には対象労働者の同意が必要とされています(同)。
この同意を労働者が拒否したことを理由として、使用者が労働者を不利益に取り扱うことは禁止されています(同項9号)。
会社で労働基準法違反が発生している場合には、労働者は行政官庁または労働基準監督官に対してその事実を申告することができます(労働基準法104条1項)。
かかる申告を行ったことを理由として、会社が労働者を不利益に取り扱うことは禁止されています(同条2項)。
年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、そのことを理由として労働者を不利益に取り扱うことは禁止されています(労働基準法136条、39条)。
産休・育休を取得した期間を欠勤扱いとしてボーナス(賞与)の査定が行われた結果、ボーナス(賞与)が減額または不支給とされるケースがあります。
ノーワーク・ノーペイの原則(民法624条1項)からすると、休業期間に応じてボーナス(賞与)が割合的に減額されること自体は、法律上も許容されると考えられます。
しかし、たとえばボーナス(賞与)の支給条件に「出勤率が一定以上であること」が設けられており、産休・育休を取得することで同条件を満たすことが事実上不可能となるようなケースも存在します。
このような場合には、労働者は実際の休業期間以上にボーナス(賞与)に関して不利益を受けることになり、産休・育休の取得に対する抑止力として機能してしまう可能性があります。
最判平成15年12月4日は、上記のようなケースについて、「出勤率」を満たしていないことを条件にボーナス(賞与)を全額不支給とした会社の行為を違法・無効と判断しました。
会社が労働者のボーナス(賞与)を一方的に減額する行為は、労働者に対して精神的なダメージを与える側面があることは否定できません。
このような行為は、いわゆる「パワハラ」に該当しないのでしょうか。
労働施策総合推進法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)30条の2から30条の8の規定(いわゆる「パワハラ防止法」)によれば、パワハラとは以下の要件をすべて満たす行為をいいます。
①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
③労働者の就業環境が害されること
厚生労働省の示すガイドラインによれば、パワハラに該当する行為として、以下の6類型が挙げられています。
・身体的な攻撃
・精神的な攻撃
・人間関係からの切り離し
・過大な要求
・過小な要求
・個の侵害
(参考:「改正労働施策総合推進法等の施行によるハラスメント防止対策の強化について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000595790.pdf)
上記のパワハラの定義によれば、会社が裁量権の範囲内でボーナス(賞与)を減額することは、パワハラには該当しないと考えられます。
しかし、賞与の査定をする際に、著しく不当な理由による減額は、労働者に対する「精神的な攻撃」としてパワハラに該当する可能性があります。
また、ボーナス(賞与)を減額するために不当に労働者の仕事を取り上げたり、閑職に追いやったりする行為も、「過小な要求」としてパワハラに該当する可能性があるでしょう。
パワハラ防止法については下記まとめ記事が詳しいので、ボーナスカットされた方だけではなく、現在パワハラにあってる方なども、あわせてご参照ください。
労働災害により休業した労働者について「労災を使うとボーナスが減る」という噂もネット上に流れています。
また実際、ボーナス(賞与)を減額することもしばしば行われます。このような行為は、法律上問題ないのでしょうか。
労働災害による傷害や疾病の場合は、本来会社の責任負担の下で労働者の生活保障を行うべきとされています(労働基準法19条1項など)。
そのため、労災保険給付を申請したこと自体を理由としてボーナス(賞与)を減額することは違法の疑いがあります。
ただし、労働災害を原因とする傷害や疾病によって休業した期間に応じてボーナス(賞与)を割合的に減額することについては、労働基準法上も認められる余地があります。
大阪地判平成8年9月27日(錦タクシー事件)では、労働災害により休業した労働者について、
「休業している労働者を賞与の計算上、実際に労働したものとして取り扱わなければならないものとすることはできない」
として、ボーナス(賞与)の減額が認められています。
退職予定者に対するボーナス(賞与)の減額は認められやすいです。
ボーナス(賞与)には、「これまでの労働に対する対価の後払い」「将来の労働に対する期待」という2つの側面があります。
退職予定者については、将来の労働を期待できないため、ボーナス(賞与)のうち一定金額を支給しないことは認められやすいといえるでしょう。
ただし、依然として「これまでの労働に対する対価の後払い」という側面は残るため、全額を不支給、つまり「ボーナスもらえない」というのが良いかについては慎重な検討を必要とします。
労働問題に強い弁護士などに相談、または訴えるなどの対応が考えられます。
退職予定者についてボーナス(賞与)を全額不支給とする場合には、就業規則や賃金規程の内容を労働者に対して十分に周知しておくことが求められるでしょう。
今回は、ボーナスカットの問題について解説して参りました。
現在、新型コロナ感染症による影響で看護師のボーナスカット・ボーナスなし問題も話題ですが、それ以外の業種でもボーナスカットされローンが払えない人も続出してきています。
ただ、ボーナス(賞与)の減額や不支給については、一般的には会社の裁量が広く認められる領域といえます。
また、労働契約の内容や、減額・不支給の理由によっては違法となる場合があります。
ボーナス(賞与)の減額や不支給が不当ではないかとお考えの方は、一度弁護士にご相談ください。