パワハラ防止法とは?|罰則・事例・何が変わるか解説【2022年版】
2020年6月1日より、いわゆる「パワハラ防止法」が施行されました。 パワハラ防止法には、職場においてパワハラが発生…[続きを読む]
「上司からパワハラを受けているけど労災は申請できる?」
「パワハラで精神疾患・うつ病を患ってしまったけど労災は下りるの?」
実は、昨今はパワハラ被害の重大性が認識されつつあり、パワハラを受けて精神疾患を患ってしまった場合、労災が下りる可能性があります。
しかし、労災申請を考えているものの、どのような基準を満たせば労災がおりるのかわからず、労災申請に二の足を踏んでしまうという方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、パワハラが労災として認定される基準と申請する際のポイントについて解説します。
目次
パワハラというと具体的に暴力や怪我でもしない限り労災が認められないのではないかと思っている方もいるかもしれません。
しかし、パワハラによる精神障害についても労災が認められることになっています。
確かに、以前はパワハラが労災の認定基準に含まれていなかったため、上司から暴言を吐かれたり、嫌がらせを受けたりしても救済を受けることができず、泣き寝入りをするというパターンも多かったと考えられます。
しかし、現在はパワハラの問題が広く認識されてきたことにより、パワハラによる労災申請も認められるようになってきています。
厚生労働省では、労働者が発病した精神障害を労災認定できるかどうかの判断基準として、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。
この認定基準では、発病前の6か月間に起きた業務による出来事について、強い心理的負荷が認められることが労災認定の要件となっています。
そして、令和2年6月から労働施策総合推進法においてパワハラの定義が法律上規定されることになりました。
これを受けて、認定基準における心理的負荷評価表では、パワハラは一般的に強い心理的負荷がかかるものとして明示されることになりました。
パワハラの労災申請をするにあたっては、まずどのような行為がパワハラとして認められるのかを知っておく必要があります。
労働施策総合推進法では、パワハラは下記のように定義されています。
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」(労働施策総合推進法30条の2第1項)
つまり、パワハラの要件としては、以下の3つとなります。
・職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
・業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
・労働者の就業環境が害されること
また、厚生労働省の指針では、以下のような行為がパワハラとして認められます(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号))。
たとえば、殴ったり、蹴ったり、物を投げつけたりすることがこれにあたります。
たとえ怪我がなかったとしてもこれらの行為を行なったこと自体がパワハラにあたります。
たとえば、人格を否定するような言動や、必要以上に長時間にわたって厳しい叱責を繰り返す言動、他の労働者がいる前で威圧的な叱責を繰り返す言動などがあげられます。
ただし、問題行動がある従業員に対して、ある程度「指導する」「注意する」ことはパワハラにはあたりません。
たとえば、別室に隔離したり自宅で研修させたりして仕事をさせなかったり、集団で無視をして職場で孤立させたりすることが「人間関係からの切り離し」にあたります。
ただし、短期集中的に新規採用者に対して別室で研修をすることはこれにあたりません。
たとえば、長期間にわたって肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業をさせたり、新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責したりすることがあげられます。
ただし、労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せたり、繁忙期に業務上の必要性から一定程度多い業務を任せたりすることはこれにあたりません。
たとえば、管理職である労働者を退職させるため、誰でもできる簡単な業務しか行わせなかったり、仕事を与えなかったりすることがこれにあたります。
ただし、労働者の能力に応じて業務量を軽減することはこれにあたりません。
たとえば、労働者の性的指向などの個人情報について、同意を得ないで他の労働者に暴露することなどが個の侵害として挙げられます。
ただし、労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況や個人情報などについてヒアリングを行ったり、人事労務部門の担当者に必要な範囲で伝えることはこれにあたりません。
そもそも労災とは、業務上の事由や通勤途上での負傷、疾病、障害、死亡などの災害のことをいいます。
パワハラを受けた場合は、うつ病や適応障害、睡眠障害などの精神障害を発症することがあります。この業務上の事由による精神障害が労災として認められることになります。
そして、パワハラによる精神障害が労災認定されるためには、下記の要件が必要になります。
①発症前の約6か月間に業務によって強い心理的負荷を受けたこと
②業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
心理的負荷の強度については、認定基準における心理的負荷評価表に基づいて判断されることになります。
これは、発病前の6カ月間に職場で起きた出来事を心理的負荷の強い順にⅢ・Ⅱ・Ⅰの3段階の類型に分け、個別の事例において具体的な心理的負荷の強度を評価するというものです。
令和2年6月の改正により、パワハラの一般的な心理的負荷の強度は、3段階のうちもっとも強いⅢに該当することが新しく定められました。
そして、具体的なケースにおいてパワハラの心理的負荷が強いかどうかの判断は、
・ 指導・叱責などの言動に至る経緯や状況
・ 身体的攻撃、精神的攻撃などの内容、程度
・ 反復・継続など執拗性の状況
・ 就業環境を害する程度
・ 会社の対応の有無及び内容、改善の状況
などを考慮してなされることになります。
心理的負荷が強いと評価される例としては、以下のような場合が挙げられます。
・ 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
・ 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
・ 上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合
なお、これらの強い心理的負荷が認められるかどうかについては、労働基準監督署の調査に基づいて判断されます。
精神障害を発症していて、強い心理的負荷があるとしても、精神障害の原因が業務以外の心理的負荷や個人的事情によるものである場合には、労災申請は認められません。
これは、認定基準における業務以外の心理的負荷評価表に基づいて判断されることになります。
たとえば、業務以外の心理的負荷評価表では、夫婦間の離婚や別居、病気や怪我などがもっとも心理的強度が強いⅢに分類されています。
パワハラで労災申請をするには、労働者もしくはその家族が労働基準監督署長に対して労災保険給付の請求を行うことになります。
労災申請の手続きは以下のようになります。
労災の請求書用紙は労働基準監督署でもらえますし、厚生労働省のホームページからもダウンロードできます。
この請求書に、自分の住所や氏名、生年月日、パワハラの発生した状況などを記入します。
また、この請求書には、原則として、会社に①負傷又は発病の年月日及び時刻、②災害の原因及び発生状況などの証明を記載してもらう必要があります。この証明は労災があったことを会社が認めるものではなく、あくまで労災にあたるかどうかは労働基準監督署の判断となります。
しかし、パワハラによる精神障害で労災申請をする場合、会社が協力してくれず、この証明を拒否されることがあります。
この場合は、会社側の記入欄は空白にしておき、労働基準監督署に対して、会社に労災の証明をしてもらえなかった事情を記載した文書を添付して提出すれば受理をしてもらえます。
この文書は、特別な書式が用意されているわけではないため、「事故証明不提出の理由書」などという表題を付けて、「会社に証明を拒否されたため、会社からの証明はないが、請求書を受理していただきたい」旨を記載することになります。
精神障害の治療を受けている病院の医師から、治療日数や傷病名、傷病の経過などについて請求書に記載して証明をしてもらいます。
請求書を労働基準監督署に提出します。
労基署については下記ページが詳しいので併せてご参照ください。
精神障害について労災認定をしてもらうことは難しく、申請をすれば必ず認められるというわけではありません。
パワハラの労災認定にあたっては、労働基準監督署の担当官がパワハラの状況などについて、労働者本人や会社、家族などから事情を聴取するなどして調査を行います。
そのため、パワハラによる精神障害について労災認定を受けるためには、できる限り「パワハラの証拠」を集めて提出することが重要になります。
たとえば、証拠の残す方法としては、上司からの暴言を録音したり、毎日継続的に日記にパワハラを受けたことを記入したり、信頼できる同僚の証言を取っておいたりすることが考えられます。
以上みてきたように、パワハラによる精神障害の労災認定においては、①発症前の約6か月間に業務によって強い心理的負荷を受けたことと、②業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことが必要となります。
パワハラによる精神障害の労災申請をする際には、できる限りパワハラがあったことを証明できる証拠を集められるとよいでしょう。