労働基準監督署に相談・通報する際の注意点は?
労働者が使用者との間で仕事上のトラブルを抱えていたり、違法な職場環境に耐えかねていたりする場合には、労働基準監督署に…[続きを読む]
会社を退職したいけれど、「人手不足だから」「後任者がいないから」などと言われて、退職を引き止められている労働者の方もいらっしゃると思います。
そもそも、会社が退職を引き伸ばすことは法律上許されるのでしょうか。違法ではないのでしょうか。
また、退職の引き止めは「パワハラ」にあたらないのでしょうか。
そして、退職を拒否され引き止められているけど、どうしても退職したい場合には、どこに相談すればいいのでしょうか。
この記事では、退職の引き止め・引き伸ばしにまつわる法律問題について、分かりやすく解説していきます。
目次
仕事を辞めたいのに引き止められ、仕事を辞めさせてくれないことを「在職強要」といい、最近問題となっています。
「在職強要」の例としては、退職届を出しても受け取ってもらえないケースや、「人手不足だから後任が見つかるまでは待ってほしい」と言われて退職日を引き伸ばされるケース、「辞めたら損害賠償請求する」と脅されて辞めることができないケースなどが挙げられます。
日本国憲法第22条第1項は、次のように定めています。
<第22条第1項>
「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有する。」
日本国憲法第22条第1項は、国民に「職業選択の自由」を認めています。
そのため、本人が望む職業に就く自由がありますので、退職することも原則として本人の自由であり、会社が仕事を辞めさせないことは許されません。
原則として退職することは本人の自由ですが、雇用契約の内容によっては退職する時期に一定の制限がある場合があります。
契約社員や派遣社員の場合は、雇用契約において「3か月間」や「6か月間」などの雇用期間が定められています。そのため、基本的には雇用期間が終了するまでは退職することができません。
もっとも、雇用期間中に病気で働けなくなったなど「やむを得ない事由」があれば、雇用期間中であっても退職が認められることがあります。
一般的な正社員の場合は、雇用契約において雇用期間が定められていません。
雇用期間が定められていない場合には、民法が次のように規定しています。
<民法第627条第1項>
「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」
つまり、「2週間前」に退職する旨を告げれば、退職することが認められています。
退職の申し出については、会社の就業規則において「1か月前に退職を申し出なければならない」と定められている場合があります。
このような場合は、会社と話し合いをして、民法が定める「2週間」から就業規則が定める「1か月間」の間で合理的な期間を決め、退職をすることになります。
もっとも、就業規則において「6カ月前に退職を申し出なければならない」など、労働者にとって明らかに不利な定めが設けられているような場合には、その就業規則は無効となる可能性が高いので、民法に従えばいいことになります。
月給制の場合は、民法が次のように定めています。
<民法第627条第1項>
「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。」
つまり、「月の前半」までに申し出れば、翌月からの退職が認められることになります。
そして、年俸制の場合は、民法が次のように定めています。
<民法第627条第3項>
「六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。」
つまり、3か月前までに申し出なければ、退職が認められないことになります。
パワハラとは、「パワーハラスメント」のことをいい、厚生労働省の定義を確認から分かるとおり、パワハラにあたるか否かの判断となる基準は、下記の3点となります。
- 職場の地位や優位性を利用しているか否か、
- 業務の適正な範囲を超えているか否か、
- 精神的苦痛・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させているか否か
したがって、上司が退職の引き止めをすることで、職場環境を悪化させ、精神的苦痛・身体的苦痛を与えた場合には、退職の引き止め・拒否は「パワハラにあたる」と判断される可能性があります。
「労働基準監督署」は各都道府県の労働局の下で、労働条件の確保・改善指導・安全衛生の指導・労災保険の給付などを行っています。
具体的には「有給の消化」や「残業代・給料の未払い」「違法な長時間労働」「不当解雇」などの問題について、相談にのってくれます。
したがって、これらの問題であれば労働基準監督署に相談をすればいいのですが、「退職の引き止め」についての相談は、労働基準監督署では対応が難しいでしょう。
一方、労働基準監督署の上位機関にあたる「労働局」は、労働基準監督署では対応が難しい問題について、適切な対応をしてくれます。
具体的には「セクハラやパワハラ」「育児休業や介護休業の取得」そして「退職の引き止め(在職強要)」などの問題について、相談にのってくれます。
しがたって、仕事を辞めさせてくれないことで悩んでいる場合には労働基準監督署ではなく、労働局に相談をするようにしましょう。
まずは、退職するタイミングを見極めることが重要です。
先ほど退職の意思を伝える期間を解説しましたが、その期間に関わりなく、退職する決意が固まったら、なるべく早めに伝えるようにしましょう。
ベストなタイミングは、引継ぎの期間などを考えて、「退職希望日の2カ月前」には退職の意思を伝えないと「非常識だ!」と怒り出す上司もいます。
また、会社が忙しい時期に「2週間後に辞めます」などと伝えると、引継ぎが大変になり、退職を引き止められる可能性が高まります。
したがって、退職を引き止められないためにも、まずは退職をするタイミングを見極める
ように心がけましょう。
退職する理由が「納得のいくもの」であれば、退職を引き止められにくくなります。
たとえば、「自分のスキルアップのために転職をしたい」、「他にやりたい仕事がある」、「起業をしたい」など、今後のチャレンジを見据えた前向きな退職理由の場合は、会社によっては引き止められにくい傾向があります。
一方、「給料が少ない」「残業がしんどい」「職場環境が悪い」など、改善すれば退職しなくてもいいような退職理由の場合は、「改善するから」と言って引き止められる傾向にあります。
そして、注意が必要なのは、退職を引き止められたくないからといって、「嘘の退職理由」を告げることは避けるべきということです。
嘘の退職理由を告げること自体は、法律に違反するわけではありませんが、社会人として当然守るべきマナー違反です。
社会人としての自覚をもって、退職理由を告げるようにしましょう。
雇用契約においては、違約金や損害賠償の予定をすることが禁じられています。
そのため「退職をしたら損害賠償請求をする」と脅されたとしても、あまり相手にする必要はありません。
仮に、会社の備品を壊してしまって賠償の必要がある場合でも、それと退職は全く別の問題ですので、退職すること自体には何ら問題ありません。
後任が見つからないというのは、「会社側の都合」であり、労働者には関係ありません。
そのため、これを理由に退職が許されないことにはなりません。
「後任が見つかるまで待ってほしい」と言われ、それに従っていると、ズルズルと退職日だけが延びていくことになります。
このような場合は、「退職日までに引継ぎを終わらせます」と伝えて、退職日を延ばさないようにしましょう。
どうしても会社が退職を認めないなら「内容証明郵便で退職通知を会社に送り」、控えを手元に残しておくといいでしょう。
会社が労働者に対して給与を支払うことは、会社の義務です。
たとえ退職のタイミングが悪くて会社に迷惑がかかるとしても、会社が給与を支払わないという選択肢はできません。
したがって、「給与を支払わない」と言われた場合は、退職後であっても未払い給与の支払い請求はできるので、その場では無理に言い返すことはせず「証拠となる資料を残しておく」ようにしましょう。
退職理由として「給料が低いから」と告げた場合、「給料をアップするから残ってほしい」と言われて引き止められることがあります。
しかし、このような単なる口約束は「守られないケースが多い」ので、信用するか否かは慎重に判断しましょう。
確実に給料アップが約束され、退職理由がなくなった場合には、退職を考え直すというのも良いと思います。
会社が離職票を出さない、などの嫌がらせをしてきた場合は、まずはハローワークに行って相談すべきです。
そして、ハローワークから会社に対して離職票の発行をするように促してもらいます。
ただ、それでも、会社が離職票を発行してくれない場合には、ハローワークに離職票を出してもらうようにしましょう。
ハローワークに対し、雇用保険の被保険者でなくなったことの確認の請求を行うと、ハローワークは離職票を交付してくれます(雇用保険法第8条)。
会社は、なんらの理由もなく労働者を懲戒解雇にすることはできません。
そのため、このような脅しに従う必要はないので、手続きに従って退職しましょう。
有給休暇は労働基準法によって労働者に認められた権利なので、会社が取得させないのは違法です。
どうしても会社側が「退職するなら、今後の有給休暇の取得を認めない」と言う場合には、労働基準監督署や弁護士に相談をしてみるのもいいかもしれません。
相談に行く場合には、会社が有給休暇の取得を認めなかったことが分かる証拠資料を持っていきましょう。
退職金についての規定がある会社では、退職金の支給は会社の義務です。
したがって、「退職すること自体は認めるが、退職金は出さない」と言われた場合には、退職をした後に退職金の支払いを請求しましょう。
退職金についての規定の写しを準備し、会社が「退職金は出さない」と言った証拠となる資料を残しておくといいでしょう。
注意が必要なのは、契約社員の場合などです。下記ページを併せてご参照ください。
退職することは原則として本人の自由なので、法律で定められた期間さえ守れば、いつでも退職することができます。そのため、会社は「後任がいない」など会社の都合によって、退職の引き止めをすることはできません。
程度によっては、退職の引き止めがパワハラにあたる可能性もあります。
会社に退職の引き止めをされることで、どうしても退職できない状況にある場合には、「労働局」や弁護士などに相談するようにしましょう。
相談する場合には、証拠となる資料を準備しておくとスムーズです。
円満退職ができるように、余裕をもって退職の意思を伝えるよう心がけましょう。